ぶら野球BACK NUMBER
高校球児を獲る前に母親の尻を見ろ!?
伝説のスカウト、その恐るべき眼力。
text by
中溝康隆Yasutaka Nakamizo
photograph byKyodo News
posted2017/08/30 07:30
1998年のドラフトの頃……福留(中央)に挨拶する(写真左から)中日ドラゴンズの中田宗男チーフスカウト(現編成部長)、本田威志編成部長。
33年間のスカウト生活でナンバーワンの選手とは?
'97年秋に繰り広げられた9球団による高橋由伸(慶大)争奪戦にリードしながら、逆指名会見直前で巨人の多額の投資の前に涙を飲んだ片岡。
33年間のスカウト生活で出会った打者の内、間違いなくナンバーワンと絶賛した天才バッターにフラれた片岡は、晩年の背番号24を東京ドームで見ながら、心の中でこう呟くのだ。
「なあ由伸、おまえさんは巨人に入って正解だったかい?」
駆け引き、裏切り、スカウトの仕事は精神的なタフさがなければ務まらない。
ある年のドラフト当日朝には、片岡の立教大野球部の後輩にあたる選手から「一般企業への就職が決まっているが野球を諦めきれない。まだ続けたいんです」と相談を受ける。バブル全盛期、六大学の選手はプロ野球よりも銀行や不動産業への就職を選ぶ。そんな時代だった。
片岡はその熱意に押され、予定を変更してその選手を指名する。
無事、交渉権を獲得。
指名の挨拶をするため、関係者が待つホテルへ。だが、喜んでいるはずの本人は大学野球部の監督の横で俯いたままだ。そして、青年は頭を下げた。「申し訳ありません。銀行に行くことに決めました。許してください」と。
はっ……?
片岡は怒りを通り越して馬鹿らしくなったが、ロビーに報道陣が待機しているため、その後無言のまま部屋で4時間を過ごした。ひたすらまずいタバコを吸い続けながら。
スカウトたちが警戒していた「野球ゴロ」とは?
スカウトがいちばん気をつけなければならないのは、「情報の筋を間違わないこと」だと片岡は書く。
高級時計をせしめたり、自宅を新築する、いわゆる選手を“カネのなる木”としか見れない野球部監督だけでなく、ドラフト候補の有望選手周辺には、よく正体不明のカネ目当ての自称・情報通があらわれる。「俺はあの学校の監督と話せるから」と仲介料を要求する連中だ。スカウト達はそんな彼らを「野球ゴロ」と呼んで警戒していた。間違った筋の情報を掴まされて痛い目にあった同業者をこれまで幾度となく見てきた。
騙し騙され、スカウトは一人前になっていく。