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高校球児を獲る前に母親の尻を見ろ!?
伝説のスカウト、その恐るべき眼力。
posted2017/08/30 07:30
text by
中溝康隆Yasutaka Nakamizo
photograph by
Kyodo News
甲子園は時に球児の人生を変える。
なにせNHKで連日にわたり全国中継される学生スポーツは、高校野球以外にないだろう。子どもの頃からおなじみの真夏の風景。選手たちは年上の兄ちゃんと思っていたら、気が付けば自分の方が大人になってるこの感じ。今も昔も視聴者はテレビの前で、少年達の汗と涙を勝手にワリカンする。そして、一瞬の煌めきを残す新たなヒーローたちに拍手を送るわけだ。
花咲徳栄の埼玉県勢初優勝で幕を閉じた2017年の夏の甲子園でも、大会新の6本塁打を放った広陵高校の中村奨成というニュースターが誕生した。こんな時、プロ野球ファンは「もしも自分の応援する球団に中村君が入ったら……」なんつって勝手な妄想をしつつ、スポーツ新聞に載っている各球団スカウトのコメントを必死に追ってドラフト会議のシミュレートを楽しみがち。
ところでそのプロ野球のスカウトとはどんな仕事なのだろうか?
何を基準に選手を見て、学校や会社とどう接し、指名した選手といかに交渉するのか?
知ってそうで知らないスカウト業のリアル。今回はぶらり書店に出かけ、歴代スカウトたちを追った野球本を読み解いてみよう。
「高校生の選手を見るときは、母親のお尻を見ろ」
【『ひとを見抜く 伝説のスカウト河西俊雄の生涯』(澤宮優著/河出書房新社/2010年8月11日発行)】
「高校生の選手を見るときは、母親のお尻を見ろ」
そんなモットーでスカウト活動していたのが、戦後に選手として活躍したのち二軍監督、一軍コーチを経て阪神と近鉄でスカウトを務めた「スッポンの河さん」こと河西俊雄である。
のちに通算2046安打を放ち阪神生え抜き野手では唯一の名球会入り選手となる藤田平は、市立和歌山商業3年時の選抜甲子園で24打数10安打、打率.417を記録してチームを準優勝に導く活躍を見せた。1試合2本塁打も放った“打てる遊撃手”に当然プロのスカウト陣は注目した。