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塩谷司も巣立った水戸、J2での異彩。
西ヶ谷監督「ウチは再生、育成工場」
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2017/06/17 08:00
好調水戸の指揮を執る西ヶ谷監督。彼の愛妻は中継レポーターを務めているが、試合後に“夫婦インタビュー”が実現したことも。
大切にしているのは、勝つための準備を徹底すること。
現役時代から連なる様々な指導者との出会いは、他でもない彼自身のコーチングに奥行きと深みを生み出していった。そもそも、現役引退後に筑波大学の大学院で学んだアカデミックな思考の持ち主だ。硬軟自在のマネジメントで、しなやかにチームを牽引している。
「僕が大切にしているのは、勝つための準備を徹底的にする。具体的には、自分たちを知り、対戦相手を知ること。それと、ブレないことですね」
勝点をつかみ取ることから逆算して、西ヶ谷はシステムを使い分ける。試合中にも選手の立ち位置を変える。
「相手によって戦いかたを変えて、結果が出なかったら、選手たちを惑わせてしまいます。僕自身は相手に合わせるところはあるけれど、自分たちの強さを出すようにしています。リアクションに見えることがあるかもしれないけれど、自分たちから仕掛けるアクションサッカーを目ざしていますね。
水戸はバルセロナでも、レアル・マドリードでもない。サッカーが似ているとしたらアトレティコ・マドリードかな……。真っ向勝負を挑みたいけれど、それで勝てないと自分たちを追い詰めてしまう。何よりも、このチームには若い選手が多くて、彼らのキャリアはここが終わりではない。違うチームへ移籍しても使ってもらえるように、引き出しを増やしてあげるのが僕の大切な仕事だと思っているんです」
J1ライセンスを持たないチームの拠り所は“個人昇格”。
西ヶ谷が言う「ここが終わりではない」とは、水戸というクラブがJ2から抜け出せない現実を指し示す。J1昇格に必要なクラブライセンスを交付されていないのだ。ケーズデンキスタジアム水戸の入場可能数が1万5千人以上という条件を満たしていないため、J2で2位以内に入っても昇格できない。もちろん、J1昇格プレーオフにも出場できない。
クラブとしての昇格は叶わないなかで、チームのモチベーションとなるのは“個人昇格”だ。
たとえば、昨年のJ2で7月までに9ゴールをあげた三島康平は、シーズン途中で松本山雅に引き抜かれた。J1のヴィッセル神戸で結果を残せなかった彼は、J1昇格を射程とする松本山雅への“栄転”を果たした。
昨年チーム最多の41試合に出場した兵働昭弘は、プロ13年目となる'17年シーズンをヴァンフォーレ甲府で迎えている。J2でキャリアを閉じると思われていた35歳のベテランは、6年ぶりとなるJ1への復帰を成し遂げたのだった。しかも、リーグ戦の出場数はここまでチームトップタイである。