オフサイド・トリップBACK NUMBER
香川真司復活の要因をリティが分析。
「彼は『計算しやすい』選手なのだ」
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byAFLO
posted2017/05/05 11:30
シーズン終了が近づくと、選手には去就の憶測報道が飛ぶ。しかし今の香川はドルトムントでプレーする喜びをかみしめている最中かもしれない。
精神的に開き直ったとか、腹を括ったというより……。
――ゲーム(勝負事)の一番の難しさですね。
「この種の要素は、選手が年齢を重ねて経験値を積んでいけば、ある程度、自由にコントロールできると思われているが、必ずしもそうとは限らない。
プレーの出来不出来には、目には見えない精神的な要素も絡んでくる。プレーをする喜びを全身で味わえなければ、パフォーマンスに影がさしてしまう。サッカーというのは、それだけ繊細なスポーツなんだ。特に香川のようなエモーショナルな選手、サッカーが好きでたまらず、創造性を発揮することで生きている実感を覚えるタイプの場合は、精神的にうまく乗っていけるかどうかも大きい。私も現役時代は同じタイプの選手だった」
――香川の復調に関しては、とことんまで追い詰められた結果、精神的に開き直ったことが奏功したのではないかという解釈もあります。
「私はそういう捉え方はしていない。もちろん香川は、並々ならぬ覚悟で試合に臨んだだろう。だが精神的に開き直ったとか、腹を括ったなどというよりは、ピッチに立てる単純な喜びの方がはるかに大きかったはずだ。
だからこそ、試合ではいいパフォーマンスができるようになり、次の試合での出場機会にもつながっていく。それが現在の香川の状態だと思う」
年齢を重ねるほど、ゴールは有り難いものだ。
――香川は3月28日に行われた日本代表の試合(ロシアW杯アジア最終予選)では、タイを相手に先制ゴールを決めています。代表で得点を奪ったのは、約10カ月ぶりでした。このような結果も、弾みをつけたのではないでしょうか。
「もちろん。たとえ所属クラブであれ、代表チームであれ、ゴールを決めることは攻撃的な選手にとっては、自信を取り戻したり、モチベーションを高めていく上での何よりの財産になる。
さらに言えば年齢を重ねるほど、ゴールを決めた手応えを強く感じるようにもなる。20代の最初の頃は誰もが怖いものなしで、得点を決めることが当然だとさえ思っている。
ところが30代が近づいてくると、状況はかなり変わってくる。特別な例を除けば、ネットを揺らすペースはどうしても落ちてきてしまうし、その分だけゴールの有り難みがわかってくる。香川は去年から今年にかけて苦しい時期を過ごしていただけに、タイ戦でのゴールはなおさら特別なものになったはずだ」