オフサイド・トリップBACK NUMBER
香川真司復活の要因をリティが分析。
「彼は『計算しやすい』選手なのだ」
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byAFLO
posted2017/05/05 11:30
シーズン終了が近づくと、選手には去就の憶測報道が飛ぶ。しかし今の香川はドルトムントでプレーする喜びをかみしめている最中かもしれない。
チャンスがきたのは、ロイス欠場だけが原因ではない。
――時計の針を少し戻します。香川の復調を語る上では、3月11日に行われたヘルタ戦が、大きなターニングポイントになりました。交代出場する機会自体は2月11日のダルムシュタット戦から増えてきていましたが、ヘルタ戦ではフル出場を果たしただけでなく、いきなり存在感を示しています。
日本のメディアでは、そもそもヘルタ戦で先発起用されたのは、前節のレバークーゼン戦でロイスが怪我をした影響が大きいという論調が多かったわけですが、この点については?
「たしかにそういう見方をしたくなるのはわかる。実際問題、ポジションを争っているライバルが負傷したことで出場機会が与えられ、復調のきっかけになるパターンもサッカー界では往々にしてある。
だがそのような側面ばかりから捉えるのは、あまりにも安易だ。香川本人に対してはなはだ失礼だし、公平さも欠いている。
香川にチャンスが回ってきたのは、ロイスの欠場だけが原因ではない。他にも様々な要因が複雑に絡み合っている」
「安定感」という才能が、正しく評価され始めた。
――具体的には?
「先ほど私は、香川が持っている『安定感』という才能が、正しく評価され始めたこと、香川を最大限に活かす方法を、監督が把握し始めたのではないかと述べた。だが、このような変化は突然、一方通行で生まれるわけではない」
――実際にプレーするのは、香川ですからね。
「その通り。トゥヘルが香川の特徴を把握し始めたように、香川もまたトゥヘル監督の意図やチーム戦術、どのようなプレーを好み、どのような役割が求められているのかということを深く理解することによって、初めて状況は変わってくる。
香川は控えで試合を見つめている間、自分はどのポジションで、どういうプレーをすれば、チーム戦術の大きな枠組みの中で、最も効果的なプレーができるのかということを、必死に考え続けてきたはずだ。
さもなければ、いきなりチャンスが巡ってきたときに、すばらしいパフォーマンスを発揮できるわけがない。
たしかにこれまでは、香川の努力はなかなか報われなかったかもしれない。出場機会が与えられず、ゲーム勘を失いかけていたのも事実だ。だが、ひたむきな努力は決して無駄にならない。香川の場合は、そこに戦術やゲームマネージメント、監督の評価といったいくつもの理由が複雑に合わさることで、与えられたチャンスを見事にものにしたと見るべきだろう。
関連して言うならば、香川はトップ下でボールを受け取ってからのプレーの仕方だけでなく、その一段階前のアクション、いかにすれば活きたボールを味方からもらえるのかも、ずっと見極めようとしてきたはずだ。そこまで考えなければ、効果的なプレーはできない。仮にパスをもらっても、タイミングやポジショニングが適切でなければ、チャンスを作り出していくことはできないからだ。その意味ではチームメイト、特に2人のボランチも、香川への効果的なパスの出し方を学んでいったはずだ」