フランス・フットボール通信BACK NUMBER
「情熱は衰えた」ある有名作家の告白。
高齢化、中毒化するプレミアリーグ。
text by
フィリップ・オクレールPhilippe Auclair
photograph byMARK LEECH/L'EQUIPE
posted2017/02/13 11:00
これがアーセナルの年間シートパス(カードフォルダの下部分)。価格はおおよそ十数万円から30数万円。
SNSの発達がまるでペストの蔓延のように……。
――具体的に何を失くしたのですか?
「最も大きな問題は、今日におけるサッカーの偏在性だ。それが僕らの世代のサポーターのゲームや選手、クラブ、他のファンとの関係を変えてしまった。
以前も贔屓のチームが負けたらもちろん落ち込んだ。でも1日24時間サッカーのことを考えているわけではなかったし、1週間をまるまるサッカーに費やしてもいなかった。ウィークデーには別の関心事があった。その間に休息をとって、フレッシュな状態で次の試合を迎えられた。
ところがソーシャルネットワークの発達――まるでペストの蔓延に匹敵するような――が、サポーターという存在をまるでひとつの職業のように変えてしまった。
今はのべつ幕なしにサッカーを語り、サッカーに関わっている。
大量の情報を流通させるのは、経済的な側面からもサッカーに必要ではあるが、ファンは選手の移籍に関する噂話に大きな時間を割くことを強いられている。
他に何が言えるのか。
マシンを動かし続けなければならないし燃料を補給し続けねばならない。プレミアリーグはひとつの巨大なマシンになってしまった。
この前アーセナルが、まずい試合をしながらもプレストンに勝ったのを見ただろう。あの試合のいったい何を語れるのか。何もない。これまでに何百回となく見てきたことの繰り返しで、巨人が小人をひねり潰した。それだけのことだ。なのにそこに別の話題を見つけ、どうでもいいことをさも重要なテーマであるかのように語る。僕を含めプレミアリーグ以前のサッカーファンの多くは、そんなことのために昔からサッカーを見ていたわけじゃないし、とてもじゃないが本気にはなれないと、気持ちが引いているわけだ」
新しいスタジアムのアメリカンスタイルについて。
――プレミアのほとんどのクラブが、あなたがアーセナルを追っていたころの旧いスタジアムを立て替えて……。
「新しいスタジアムの建築デザインも、気持ちが離れていくひとつの要因だ。今はすべてがボウル(アメリカンスタイル)で……。
以前はウェンブレーにしろオリンピコやマラカナにしろ、どこも決勝の舞台に相応しい容姿を誇っていた。しかし今は、そんな晴れやかな気持ちになるのは最初の1回だけだ。世界が標準化した結果、スタジアムは高い金を払ってオーケストラを聞きに行く劇場になってしまった」