フランス・フットボール通信BACK NUMBER
「情熱は衰えた」ある有名作家の告白。
高齢化、中毒化するプレミアリーグ。
posted2017/02/13 11:00
text by
フィリップ・オクレールPhilippe Auclair
photograph by
MARK LEECH/L'EQUIPE
1月31日発売の『フランス・フットボール』誌は、プレミアリーグの停滞を巻末で特集している。
清潔だが無味乾燥なスタジアム、そのスタンドを埋め尽くす海外からの観光客たち、法外な値段のチケット、減少する観客数……。圧倒的な資本力に基づく経済的な繁栄とは裏腹に、プレミアはその内側から蝕まれようとしている。今こそイングランドの伝統を見直し、原点に回帰しながら未来を模索すべきではないのか。その問題意識のもとに、プレミアリーグの現状を分析している。
特集の最後を飾るのが、フィリップ・オクレール記者による小説家ニック・ホーンビーのインタビューである。
『ぼくのプレミア・ライフ』の著者として日本で知られるホーンビーは、1957年生まれの59歳。英国を代表する作家であり、またアーセナルの熱烈なサポーターである彼の言葉は、決して「昔は良かった」という類の旧い世代のたわごとではない。
プレミア以降(ヨーロッパではボスマン裁定以降)、サッカーのあり方が変わったことの功罪はどこにあるのか。功のみがこれまで肯定されてきた中で、罪は何でありどこを変えていけばいいのか。
同じ世代に属するものとして、筆者もマラカナやベロドロームの改修は、改悪に等しいという感は拭えない。
またサッカーのビジネス化、アメリカ化は時代の趨勢とはいえ、ヨーロッパのスポーツ文化を考えたときに、本当にこれでいいのかという強い思いがある。グローバリゼーションは、決して価値の単一化であってはならない。
ホーンビーの議論と問題の立て方は、スポーツ文化の成り立ちとあり方がヨーロッパとはまったく異なるアメリカでは絶対にあり得ない。そしてフィリップ・トルシエやイビチャ・オシムが、どうしてあれほどスターシステムとアメリカ化に批判的であったかとも通底している。
伝統的にアメリカ化がスポーツメディアと読者に根深く染みついている日本では、なかなか理解しにくいことかも知れない。ただ、ときに自らの前提を問う地味で生真面目な作業も、皆さんにもやって欲しい。
監修:田村修一
熱狂的アーセナルサポーターの小説家。
59歳の彼は、500万部以上を売りつくした英国におけるその世代で最も著名な小説家のひとりである。同時に彼は、ずっと変わらぬアーセナルのサポーターでもある。証言を伝える。
――あなたは『フィーバーピッチ』(邦題『ぼくのプレミア・ライフ』)に書いたように、今もずっとアーセナルのサポーターでいるのですか?
「今でもホームゲームにはすべて通っている。でも以前に比べると情熱は衰えたよ。子供たちが熱烈なサポーターでなかったら、僕も毎試合は見に行っていないだろう。彼らの感じ方は、何を失くしたかを自覚している僕らの世代とは全然違うからね」