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「情熱は衰えた」ある有名作家の告白。
高齢化、中毒化するプレミアリーグ。 

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フィリップ・オクレール

フィリップ・オクレールPhilippe Auclair

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photograph byMARK LEECH/L'EQUIPE

posted2017/02/13 11:00

「情熱は衰えた」ある有名作家の告白。高齢化、中毒化するプレミアリーグ。<Number Web> photograph by MARK LEECH/L'EQUIPE

これがアーセナルの年間シートパス(カードフォルダの下部分)。価格はおおよそ十数万円から30数万円。

贔屓のチームが負けたときは詐欺にあった気分に。

「僕は(勝利だけでなく)敗北とともにも生きたい。しかし今日では、高い金を払って試合を見に行って、贔屓のチームが負けたときには詐欺に会って騙された気分になる。チームと監督に金を返せと言いたくなる。クラブへの愛情と情熱ではなく、明確な目的のない、ある種盲目的な怒りに突き動かされている」

――旧いスタジアムとともにわれわれが失ったものは何だったのでしょうか?

「僕がハイベリーに通っていた最初のころ、僕が座っていた席は1930年代から基本的に変わっていなかった。入口の回転木戸を通り抜けた先には、ハーバート・チャップマン監督(アーセナルの伝説的な監督。WMシステムの創始者)のもとでテッド・ドレイクやクリフ・バスティンがプレイしていた当時と変わらない世界が広がっていたわけだ。スタジアムに入るのは、クラブの歴史に入り込むのと同義だった。

 僕もエミレーツスタジアムのもとで、“アーセナル化”しようとしているクラブの努力は評価している。彼らもまた何かを作り出そうとしている。でもそれは、過去からは断絶されたまったく別の世界だ。新しいスタジアムには、バーコードを読み取らせるかクレジットカードを提示して入場する。空港でフライトのチェックインをするのと何の変りもない」

――そうした新しいスタジアムにも、かつてあった魂を宿らせる方法は何かありますか?

「テラスを復活させることと、チケットの値段を安くすることが改善につながるだろう。思いつきでしかないが。いずれにせよ早急な改革が必要だ。たしかにスタジアムは今も満員だが、若者の数は徐々に減っているのだから」

クラブとリーグは、麻薬の密売人のような振る舞いを。

――チェルシーの年間シート購買者の平均年齢は55歳です。他もあまり変わりません。

「本当なのか? 信じられない。時代遅れと言われるかもしれないが、20年前までは誰でもチケットを買うことができた。

 そこからサッカー中毒の世代が生まれて、中毒者たちは耽溺し続けるためにより多くの出費を余儀なくされている。

 今やクラブとプレミアリーグは、麻薬の密売人のように振る舞っている。ファンが中毒に陥り、金を払い続ける以外にないことを知りながら」

【次ページ】 中国における高額移籍金をプレミアは批判できない。

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