書店員のスポーツ本探訪BACK NUMBER
「電通とFIFA」という怪物を読む。
W杯を巡るサッカービジネスの奥底。
posted2016/12/15 07:30
text by
伊野尾宏之Hiroyuki Inoo
photograph by
Wataru Sato
1990年、高校生だった私はある日の深夜、たまたま海外サッカーの中継をNHKで見た。それがワールドカップイタリア大会の開幕戦、アルゼンチンvs.カメルーン戦だった。
「ああ、『キャプテン翼』に出てきた4年に一度開催される国際大会というのはこれかあ」と思った。
試合はダークホースと見られたカメルーンが優勝候補のアルゼンチンに勝利する番狂わせを起こすのだが、翌日、新聞のスポーツ面を開いてもそのことを伝える記事はとても小さく、紙面の大半は同日行われていたプロ野球の結果を伝える記事が占めていた。
1990年の日本におけるワールドカップ、世界のサッカーはそのようなものだった。
あれから26年が経ち、日本におけるワールドカップ、世界のサッカーに対する立ち位置は劇的に変化した。
ワールドカップは日本代表が出場するのが当然のようになり、自国でも開催した。日本代表の試合は衛星生中継され、試合が行われた日の夜は都心の繁華街で代表ユニフォームを着た人々を見ることがすっかり当たり前になり、試合結果は新聞の一面を飾る。
サッカーの市場価値はなぜここまで大きくなったのか。
サッカーの価値が変わったのは日本だけのことではない。
1998年フランス大会の時は6億円だったワールドカップの放映権料は、2014年ブラジル大会では400億円にまで上がった。
海外選手の移籍金は高騰し、2009年にマンチェスター・ユナイテッドからレアル・マドリーに移籍したクリスティアーノ・ロナウドの移籍金は9400万ユーロ(約110億円)と言われている。
サッカーの市場価値がここまで大きくなった背景には、巨大化させた人々がいる。
ピッチの上で繰り広げられる戦いとはまた別の、ほとんどの人に見えないところで静かに繰り広げられた「サッカービジネスをめぐる戦い」があった。