書店員のスポーツ本探訪BACK NUMBER
「電通とFIFA」という怪物を読む。
W杯を巡るサッカービジネスの奥底。
text by
伊野尾宏之Hiroyuki Inoo
photograph byWataru Sato
posted2016/12/15 07:30
巨大化するサッカービジネスとFIFAの実態を、「電通」という視点から捉え直す。
“サッカーの裏面史”に次々とインタビュー。
そのことを書いた本がノンフィクション作家・田崎健太氏による「電通とFIFA~サッカーに群がる男たち」(光文社新書)である。著者は“サッカーの裏面史”の重要人物に次々にインタビューを行っている。
その中心にいるのが広告代理店、電通の元専務・高橋治之氏である。
“サッカーの神様”と呼ばれたペレは1977年9月、日本で引退試合を行った。
ペレの所属するニューヨーク・コスモスは古河電工、日本代表チーム、それぞれと戦う二つの親善試合を行うことになった。
その試合のプロデュースをしたのが電通の高橋治之氏だった。
高橋は大会名を「ニューヨーク・コスモスvs.古河電工(もしくは日本代表)」ではなく、「ペレ・サヨナラゲーム・イン・ジャパン」と名付けた。
ペレ・サヨナラゲームは規格外の動員に成功。
大会のテレビCMを流したかったが、資金がない。
そこで高橋はスポンサーをつけることを考える。
当時、サントリーが「ポップ」という清涼飲料水を売りだしていた。高橋はサントリーをスポンサーにし、「ポップ」の王冠を集めて送ると「ペレ・サヨナラゲーム・イン・ジャパン」のチケットが当たる、というキャンペーンを行った。
これが当たった。チケットは子供たちの間で奪い合いになったという。
そうして「ペレ・サヨナラゲーム・イン・ジャパン」は国立競技場に7万2千人という大観衆を集める。その年の日本リーグの平均観客数は1試合あたり1773人だったというから、いかに規格外の観客動員だったかわかる。