野球場に散らばった余談としてBACK NUMBER
今季も正捕手が決まらなかった阪神。
学ぶべきは広島ベテランの“生活感”!?
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph byHideki Sugiyama
posted2016/10/20 11:30
広島の名捕手・石原慶幸が、いかに低く構えているかがよく分かる写真。そのキャッチングの技術は球界一との声もある。
名捕手は常に投手目線、審判目線で考える。
ちょっとした余談で、締めくくりたい。
いまでこそ、円熟の妙味がある石原だが、ルーキーの頃はホロ苦い思い出もある。
ブルペンで投手の球を捕っていると、球筋をチェックするため、山本浩二監督(当時)が打席に立った。ぼそりと漏らしたのだという。
「音が鳴らないな……。キャッチングが悪いわ」
球界随一と評される捕球技術は、ここからスタートした。石原も「そういうのもあったから、試行錯誤しました。ちゃんとしたところで捕れば、音は鳴るんです」と述懐していた。
筆者が広島カープの担当記者をしていた5年ほど前、達川さんに石原の捕球について聞く機会があった。こんなことを言っていた。
「アイツはね、姿勢が低いんよ」
さらに言葉を継ぐ。
「構えを見ていても、考え方にしても、自分よりも相手を中心に考えている。審判が見えやすい姿勢で捕るのもその1つ」
上体が立っていれば後ろで構える球審の視界は狭くなり、死角ができる。捕手が低い姿勢を保てば、視界は広がり、ジャッジしやすい。
「プロで一番大事なのは、審判に見えやすいように捕ること。石原はね、常に投手サイド、審判サイドで物事を考えとるんよ」
相手を思いやれる人情があった。
“生活感”あふれる石原の歩みは、阪神の正捕手をうかがう若手にも、有形無形のヒントになるはずなのだ。