野球場に散らばった余談としてBACK NUMBER
今季も正捕手が決まらなかった阪神。
学ぶべきは広島ベテランの“生活感”!?
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph byHideki Sugiyama
posted2016/10/20 11:30
広島の名捕手・石原慶幸が、いかに低く構えているかがよく分かる写真。そのキャッチングの技術は球界一との声もある。
正捕手不在の現状を矢野コーチも危惧する。
正捕手は1日にしてならず。
シーズン4位に甘んじた阪神は、今年もレギュラー捕手が現れなかった。開幕マスクをかぶった岡崎は7月中旬に左手骨折で戦線離脱し、38試合の守備にとどまった。育成枠から支配下選手登録された原口文仁が捕手最多の87試合を守り、プロ3年目の梅野隆太郎が35試合、新人の坂本誠志郎が25試合でマスクをかぶった。まさに、帯に短したすきに長し。作戦兼バッテリーコーチを務める矢野燿大も現状を危惧する1人だ。
「来年も今年のようなままじゃ、上位に行くチームになりにくい。競争は競争やけど、1人に絞れるくらいにならないと。強いチーム、勝っているチームは1人か2人に絞れてくる。まずはしっかり守ることで、チームとしての落ち着きもでてくるからね」
セオリー通りの配球が失点につながることも。
9月下旬の広島遠征。若手の梅野、原口、坂本が同行していた。矢野は彼らを誘い、広島市内の焼き肉店へ。そこに第一線で投げ続ける投手も呼んだ。当然のごとく、野球談議になる。話題が投手の志向になったときだ。
「コーナーに完璧な球がドンピシャで決まったら、次の球はどうしたい?」
ある投手はこう返した。
「僕はもう1球、同じ球を投げたいですね」
別の投手は、まったく違う意見だった。
「いや、僕は同じ球は投げたくないですね。そこまでドンピシャに投げられるかどうか」
矢野は若者を見渡して、こう言ったという。
「同じ投手でも、これだけ考え方が違うんだ」
捕手は投手が考えていることを知り尽くしてこそ、ベストな配球につながる。細やかな経験を丹念に重ねていくことでしか、道は開けない。
あるとき、高めの速球に球威がある左腕の岩崎優に対して若手捕手が何度も低めに投げろとジェスチャーしていた。案の定、痛打を浴びていた。