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イタリアへのトラウマと、分析技術。
ドイツEURO準々決勝、PK勝利の内幕。
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byAP Photo/AFLO
posted2016/07/05 17:00
PK戦は最終的に両チーム9人目までが蹴る展開に。この神経戦を制したのは30歳の守護神ノイアーだった。
ドイツが力を入れる対戦相手分析のテクノロジー。
なぜこのような状況になったのか。理由は大きく分けて2つある。
1つは、今大会にむけて、ドイツが相手チームの分析にさらに力を置くようになったことだ。
'14年のブラジルW杯の際には、1つの試合の中でのドリブル、1対1の競り合い、シュート、パスなどの細かなアクションなど、計4000万件以上のアクションを解析、記録して、必要なシーンを抽出して映像で確認できるSAP社のソフト「マッチインサイト」を共同開発した。そして、そこにコーチングスタッフだけではなく、選手たちもスマートフォンやタブレット端末からいつでもアクセスできるようにして、大きな話題となっていた。そのソフトはその後、さらに進化を加えた上で使用されているが、今大会から更に2つのソフトを新規採用している。
そのうちの1つが、チャレンジャー・インサイトで、対戦相手の分析に特化したものだ。そこでは相手チームの採用するフォーメーションに始まり、そこで各選手のポジション、長所、短所、ゴールに絡んだシーンもわかる。さらに、各選手の特徴をつかみやすいハイライト映像もボタンをクリックするだけで把握できる。そうしたソフトを採用しているのも、相手チームの分析と、それに対応することに大きな意味を見出しているからだ。
そう考えると、イタリアにあわせた戦いをするのも当然の帰結だ。
レーブ体制のドイツがイタリアに対して抱えるトラウマ。
そして、2つ目の理由が、過去の苦い経験があったことだ。
'06年のドイツW杯の後からチームを率いるレーブ監督が、就任してから最も大きな批判にさらされ、危機を迎えたのが4年前のEUROだった。準決勝のイタリア戦では、大勝した前の試合からメンバーを入れ替え、イタリアの司令塔であるピルロをマークさせる役割をクロースに与える采配でチームを混乱におとしいれた。そして、試合には1-2というスコア以上のひどい内容で敗れている。
しかし、大会がおわってからも采配ミスは決して認めなかった。
レーブは「持っているものを出せなかった」と話したし、フンメルスも「個々の選手によるミスがあった」と語った程度だ。4年前の時点では、イタリアにEUROとW杯あわせて4分3敗と一度も勝てておらず、トラウマをかかえていた。そうした状況が采配ミスを呼び込んだのは明らかだった。