オフサイド・トリップBACK NUMBER
ダイヤモンドを使いこなす条件とは。
なぜハリルはいま新布陣を試したか。
posted2016/04/12 10:30
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph by
AFLO
「本当にダイヤモンドを試したりしたのか?」
イングランドの知人と話をしていると、突然、相手が声をうわずらせた。話題がCLの準々決勝から、日本代表のアフガニスタン戦に移ったときのことだ。
相手が驚いたのも無理はない。中盤をダイヤモンド形に構成する4-4-2は、欧州サッカー界では過去の遺物となりつつある。
ピッチ上でダイヤモンドを目にする機会が、皆無になったわけではない。昨シーズン、ユベントスはこの魔法陣でCLのファイナルに臨んでいる。今シーズン、ドルトムントのトゥヘル監督がバイエルン戦に向けて用意したのも、香川真司をトップ下に据えたダイヤモンドだったし、ブンデスリーガには、トーマス・シャーフ監督という使い手もいた。昨年12月、イングランドのリーグカップ準々決勝では、リバプールのクロップ監督がダイヤモンドを駆使して、サウサンプトンに6-1で大勝した。
ダイヤモンドは、構造的に問題を抱えている。
しかし全体的に見るならば、やはりダイヤモンドの人気は下火になっていると言わざるを得ない。原因はその構造的な特徴にある。
2トップ+1トップ下を使えるというメリットと引き換えに、(1)サイドの幅を確保しにくい、(2)サイドMFの負担が大きい、(3)中盤の底におけるスクリーンが手薄になりやすいと、いったデメリットを抱えているからだ。
ハリルホジッチ監督も、この問題は認識していたと思われる。現にシリア戦の前日会見で、真意を直接尋ねた時には「どのオーガナイズ(組織)にも長所と短所がある」と認めていた。その上で、テストを行った理由を次のように解説している。
「何人かの選手を試しつつ、他の選手の疲労を回復させたかったからだ。今のところは3トップでずっとやっているが、この間は真ん中に2トップを置いた。色々なリスクを取りながら、真ん中の選手の組み合わせをトライしてみた」
当の選手たちは、ダイヤモンドを練習したのが1日だけだったということもあり、単発的なテストの域を超えないのではないかという感想を漏らしていた。現に2次予選の最終戦となるシリア戦では、システムは従来の4-2-3-1に戻されている。
とはいえ、ハリルホジッチ監督が、単なる思い付きで新たなシステムを試したとは考えにくい。代表チームが活動できる日数は、ただでさえ限られている。ましてや9月からは最終予選がスタートし、それが終わればいよいよロシア大会の本番が訪れる。時間との戦いの厳しさは、監督自身が誰よりも強く感じているだろう。伊達や酔狂で、貴重な時間を使ってテストをする理由がないのだ。