マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
選抜は個性派の二塁手が盛り上げた!
高松商、大阪桐蔭、智弁学園の凄い3人。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/04/05 10:30
高松商の美濃晃成は、U-18アジア選手権の代表候補にも名前を連ねた。170cm以下のプロ野球選手ももちろんいるだけに、期待は大きい。
美濃晃成だけで、いくらでも文章をつづれる。
2回戦、創志学園との試合は苦戦が予想されていた。
3回だ。2死一、二塁から兄弟選手の兄・植田響介捕手がレフト前でつないだ満塁で、走者一掃のレフトオーバー二塁打で先制の3点を奪った美濃晃成。次の弟・植田理久都一塁手のダメ押し2ランにまで流れをつないだ。
植田兄弟の間を打って、兄が作った流れをさらに強烈な流れにして弟に託す。そういう“仕事”が体現できるヤツ。
美濃晃成だけで、私はいくらでも文章をつづれる。
大阪桐蔭のセカンドもしびれるヤツだった。
優勝候補筆頭に推す人も多かった大阪桐蔭高が1つ勝って2つ目で敗れた時、やっぱりな……というつぶやきが記者席で漏れた。
実力は誰が見ても優勝候補なのだが、春はそこまで必死感が伝わってこない、そんな印象を口にする記者も何人かいた。
しかし、今年の大阪桐蔭のセカンドもしびれるヤツだ。
二塁手・永廣知紀。
すでにスポーツ紙上で伝えられている彼のバックトス。見事な技術だ。
こういうアクロバチックなプレーを“スタント”と称して、あまりよろしくないと評する空気が高校野球にはあるが、やれる選手はどんどんやればよい。
大阪桐蔭・永廣知紀のバックトスは“出来る人”にきちっと教わった技術だ。送球方向へ手首だけを振る、手先のバックトスじゃない。右ヒジがしっかり送球方向へ向き、そこから手首だけでなくヒジも振られる本物のバックトスなのだ。
さらに、永廣知紀の真骨頂はその併殺プレーだ。
スコアブックで言えば4-6-3。二塁手からベースカバーに入った遊撃手への送球は、右回転の“逆ひねり”からの送球になるが、その逆ひねりの深さがすごい。
捕球姿勢のまま、上体だけを遊撃手と正対するほどにひねる体の柔軟性と、肩甲骨の可動域。これなら送球の軌道も安定するし、何より激しく運動しながら二塁ベースに入る遊撃手の安心感が違う。勝敗を左右する併殺プレーの成否は、意外とこういうところにあるものだ。大阪桐蔭の強さの隠れた要素の一つなのかもしれない。
そんな永廣知紀のフィールディングの“隙”を強いてあげれば、先、先を見ようとし過ぎるためのうっかりミスか。
中学生でも捕れそうなフライを落球した1回戦。捕球寸前に一瞬どこかを見ていたのではないか。走者なしの場面だったが、優秀な野手ほどいつも先、先、次、次を頭に入れながら動く習慣がついており、それが時としてこうした“そそっかしさ”をひき起こしてしまう。失敗を教訓として、慎重さ、用心深さを兼備した完成型をめざしてほしい。