マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
選抜は個性派の二塁手が盛り上げた!
高松商、大阪桐蔭、智弁学園の凄い3人。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/04/05 10:30
高松商の美濃晃成は、U-18アジア選手権の代表候補にも名前を連ねた。170cm以下のプロ野球選手ももちろんいるだけに、期待は大きい。
抑えのマウンドに上がれば140キロ、長打もある。
175、6の選手に見えるから、神宮の右中間の深い所へ放り込んでもすぐには驚かないが、「ああそうだ……」と本当の体格を思い出した時のインパクトが大きい。
その体で抑えのマウンドに上がれば、初球から142ロ、3キロの快速球投手に変身。打者の視線を射返すような面構えで、相手のグリップのあたりをガンガン突いてスイングを粉砕していた。
華麗で豪快でスピードがあって、勝負根性なら誰にも負けない。
その朝青龍が、このセンバツでも土俵狭しとあばれて帰った。
センバツ出場32校、いちばん楽しみにしていた選手だ。間違っていなかった。野生のバイタリティはそのままに、さらに磨きのかかった技術と一瞬の判断力に、冬の間の練磨が透けて見えていた。
美濃晃成のフィールディングが光って見えるのは、難しい打球をグラブにおさめた直後のスローイングが安定していることだ。
崩れた体勢を即立て直し、好捕の瞬間の高ぶりをみずから冷ますような、実にクールなストライクスローを見せる。
グラウンドのあらゆるところから情報を得る集中力。
センバツの最初の試合、こんな場面があった。
リリーフのマウンドに立った美濃晃成。送りバントが小フライになって、一瞬、一塁手とお見合いになった直後、さっとボールを拾うと何事もなかったように二塁へ送球。一塁走者の進塁を阻止した。
普通はあわてる。しかもまだ実戦のカンが戻りきっていないはずの春・センバツだ。それが、このフラットさはなんだ。
二塁手として、そして投手として、美濃晃成のフィールディングの本質は“集中”だ。
彼はいつもどこかを見ている。
向かい合う打者を見、ベースに立つ走者を見、打者に立ち向かう投手の背中を見、グラウンドの荒れ方を見、さらに守るチームメイトを見て、風やスタンドの様子まで見ているようだ。
彼の視線はいつも何かを追っている。
言っておく。集中とは決して「一点凝視」ではない。凝視は心身の硬直と緊張につながるだけで、健全な集中を生むことはない。
自分と周囲、いつもどこかに目を配って、常に何かを見ていること。そして、そこから情報を得ることこそが、本当の意味での集中。美濃晃成にはそれができている。
それでいて、打席ではダイナミックな全身連動による豪快なスイングだ。一塁を強襲するととっさに二塁へ突進し、内角速球のあとの外のカットボールをレフト前に流す。
高性能の身体能力に“読める”頭脳が内蔵されて、しかも、燃えすぎない内燃機能も搭載されている。