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王者・広島に湘南はどう挑んだのか?
「対策」を綴った曹監督の日記公開! 

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曹貴裁

曹貴裁Cho Kwi-Jae

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photograph byShonan Bellmare

posted2016/03/16 12:00

王者・広島に湘南はどう挑んだのか?「対策」を綴った曹監督の日記公開!<Number Web> photograph by Shonan Bellmare

走行距離、スプリント回数などのトラッキングデータで、J屈指の数値をはじき出している高山。新キャプテンとしての誇りが、高山をさらに加速させる!

広島――過去5年間で一度も勝っていない相手。

●3月10日(木)

 3日連続のミーティングで練習を始める。

 広島は、我々が過去5年間で一度も勝っていない相手。監督になって5年目、毎日ミーティングをして試合に臨むのはこれが初めてだろう。

 選手の入れ替わりがあっても力を維持する広島のチームスピリットは他の追随を許さない。そうしてリーグを引っ張っている相手に今回どう戦うか?

 今週は対策のトレーニングを今までより多くし、選手に広島という相手を強く意識させることを実はあらかじめ決めていた。理由は簡単。過去勝てていない相手に対して、監督が週の始めに対策を講じたという点に選手の意識を向かせたかった。要は今回の対戦ではチームの戦略的な行動が勝負を分けるということを選手に強く印象付けるための効果を狙ったものだ。

 週始めに相手の対策の練習をすることには、相手を意識させすぎて自分たちの良さが出せなくなるリスクがある。リアクションの練習が必然的に多くなるため、脳で言えば新皮質のトレーニングとなり、サッカーに必要な自己判断・責任などの色合いが薄くなってしまう。ただ今回は「対策」を重点ポイントにしない限り勝ち目はないし、現時点でこのことを伝えることが選手へのメッセージだと捉え、わざと厚めに相手のインフォメーションを早期に与えた。

 監督は決断が仕事と言われるが、僕は決断するまでのロジック作りが仕事と捉えている。直感と言われるものは経験値に基づき自然と発生するもの。じゃないと直感のようなファジーなものに大事な試合の決断をかけられるはずがない。

 直感を磨くための準備、決断に至るまでの試行錯誤。そこの魂が結果につながると改めて思っている。

<試合結果>

3月12日(土)J1・1stステージ第3節
湘南2-2広島
(@エディオンスタジアム広島)

 前半、ボールを支配したのは広島。11本のシュートを浴びながら湘南は無失点で切り抜け、0-0で後半を迎える。すると46分、MFパウリーニョが左足で豪快なミドルを決めて湘南が先制。67分にPKを与えて同点に追いつかれるも、すぐにFW藤田祥史のゴールで勝ち越す。しかし広島の猛攻にさらされた試合終了間際、相手シュートをクリアしきれずオウンゴールで同点。初勝利を逃した。

<試合を終えて>

――3月8日の記述にある「厳しい叱責」は、どういう行為に向けられたものだったのでしょうか。

「オフ明け最初にミーティングをしたのは『個人が勝つためにプレーする責任をとる』ことを明確にしたかったから。ある選手の、個人が勝つためにプレーしていなかったシーンを全員の前で指摘しました。本人はビックリしたかもしれませんが、勝つためには2人で話すより全員の前で話した方がいいと判断した。選手に分からせたかったのは、僕は人ではなく事象について話しているということ。週の始めに前節を引きずらず前向きな課題に向き合わせ、もう一度スイッチを入れたいという狙いもありました」

――連日のミーティングで講じた広島対策の成果は?

「相手を意識させる練習を多くしたことでピッチ内のお互いの共通理解は間違いなく深まり、試合を落ち着いて運べた印象です。『落ち着いて運ぶ』というのは、ともすれば思い切りがなくなるという意味にもなるのが難しいところ。ただ、広島さんに対してはピッチ内に落ち着きがないと太刀打ちできないと思っていたので、その点では選手の姿勢は堂々としていたし、悪くはなかったかなと思う」

【次ページ】 「今までで一番広島さんに勝てると思えた試合」

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