詳説日本野球研究BACK NUMBER
新監督の色は、若手の抜擢に出る。
各球団で重用されそうな選手を探せ。
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byKiichi Matsumoto
posted2016/03/06 10:40
就任1年目から、世代交代という難しい局面に直面する巨人の高橋由伸監督。
長嶋茂雄が最終年に阿部を重用した理由。
近年では伊東勤監督の抜擢ぶりが見事だ。'04年に西武監督に就任すると前年23安打の高校卒4年目の中島裕之('16年から宏之に改名)を133試合に起用し、中島は27本塁打、90打点でチームの中心打者に定着した。新人監督時代という定義からは外れるが、監督2年目の'05年には中村剛也、'07年には栗山巧を抜擢したのも伊東だ。
ロッテ監督として采配を振るう現在も若手の抜擢には積極的で、高校卒捕手の田村龍弘を入団年から7試合→50試合→117試合と起用し続けている。高校卒捕手という特殊性を考えれば非常に勇気のいる抜擢である。
最初に紹介した長嶋茂雄は巨人監督最終年の'01年、新人捕手の阿部慎之助を127試合に起用していることが目を引く。新人時代の阿部はリードが外角主体で投手の特徴を生かし切れていないと言われ、打撃も安定感がなく、阿部を起用するためにシーズン成績を犠牲にするのかという批判があった。しかし後任の原辰徳監督のために、次代の捕手を置き土産として残したいという思いがあったのだろう。2年連続優勝はできなかったが、巨人の将来のためには大きな1年だった。
ラミレスはDeNA投手陣の変革を狙っている?
今季の監督の中で、印象的な抜擢をするのは誰だろう。キャンプ、オープン戦を見ると高橋由伸・巨人監督は桜井俊貴(投手・立命館大)、重信慎之介(外野手・早稲田大)、金本知憲・阪神監督は高山俊(外野手・明治大)、ラミレス・DeNA監督は今永昇太(投手・駒澤大)、熊原健人(投手・仙台大)、梨田昌孝・楽天監督は茂木栄五郎(内野手・早稲田大)……等々、新人の積極的な起用が目立つ。
若手や新人が1人でも活躍すれば在籍選手の奮起を促すことができ、監督の“色”も強烈に打ち出せるので、野心的な監督ほど若手の起用を積極的に推し進めるだろう。
投手では、ストレートに特徴のある若手がいきなり飛び出す可能性がある。即戦力候補では岡田明丈(大阪商業大→広島)、横山弘樹(NTT東日本→広島)、多和田真三郎(富士大→西武)、今永昇太(駒澤大→DeNA)、熊原健人(仙台大→DeNA)の新人5人がそれにあてはまる。
今永は駒大時代、ストレートで空振りを奪うシーンを何度も見せてきた。とくに印象に残ったのは大学3年の春秋で、2シーズン通算の奪三振率は8.69に達し、1学年上の山崎康晃(亜細亜大→DeNA)の8.02を上回った。
球速は最速148キロだから特別に速くはないが、ステップを踵から出していくので打者がタイミングを取りづらいのでは、というのが取材したときに今永本人から聞いた言葉である。この今永を起用するのが新人監督のラミレス。
DeNAには国吉佑樹、平田真吾、三嶋一輝、石田健大など素質がありながら力を十分に発揮していない投手が多い。今永と熊原を刺激剤にして投手陣に変革をもたらす、というのは野心的なラミレス監督なら十分考えそうなことである。