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憧れのセナに並ぶ3回目の王座獲得。
ハミルトンの知られざる「ある記録」。 

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尾張正博

尾張正博Masahiro Owari

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posted2015/11/01 10:30

憧れのセナに並ぶ3回目の王座獲得。ハミルトンの知られざる「ある記録」。<Number Web> photograph by AFLO

チェッカー後のパルクフェルメで、クルマを停めるなり、ハミルトンは大ジャンプで喜びを表現した。

無理をする必要は全くないレースだったが……。

 レースが行なわれた日曜日の午後にはハリケーンは熱帯低気圧となり、オースティンを通過したため荒天は収まったが問題は残った。それはレース中に路面が徐々に乾いたため、ドライバーたちは週末を通して初めてドライコンディションでの走行を余儀なくされたことだ。

 タイトルのことだけを考えれば、ハミルトンがここで無理をする必要はなかった。しかし、レースエンジニアのピーター・ボニントンは言う。

「ルイスは、チャンピオンシップポイントのことはまったく考えていなかった。彼の頭の中には常にどんな状況でもベストを尽くすことしかなかった」

 それは、チームメートのロズベルグにトップの座を明け渡した後に訪れた不運の後も変わらなかった。

「トップのニコ(・ロズベルグ)にようやく追いついて、『さあ、これからだ!!』というときに、バーチャル・セーフティカー(VSC)が入ってしまった。このとき、ルイスはニコと1秒差以内にいたため、ニコと同時にピットインすると、3番手にいたベッテルに逆転されてしまう恐れがあった。そこでわれわれはルイスをコースにとどまらせ、次の周にピットインさせるつもりだった。ところが、次の周の最終コーナーに近づいたところでVSCが終了して、レースが再開されたため、ルイスはピットインする絶好のチャンスを逃してしまったんだ」

予期せぬ不利なアクシデントにも慌てず。

 もう一度ピットストップしなければならないハミルトンにとって、このVSCは明らかに不運だった。だが、残り10数周をどう戦うかを無線でハミルトンと確認していたボニントンは、この状況になってもなお、ハミルトンがあきらめていないことを察した。

「通常、こういう状況に陥るとドライバーは取り乱すものだけど、ルイスはとても落ち着いて周りの状況を確認していたんだ」

 このあきらめない心が運を呼ぶ。

 残り13周で再びセーフティーカーが導入されたため、ハミルトンは大きくロスすることなく最後のピットストップを行ない、2番手でコースに復帰。優勝するチャンスを手にする。

 最後はトップを走るチームメートがコースオフするという自滅にも助けられて、逆転優勝。選手権2位のベッテルが3位に終わったため、ドライバーズ選手権を制した。

【次ページ】 毎年優勝し続けているのはハミルトンだけ。

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ルイス・ハミルトン
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