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過大評価、過小評価を経て等身大へ。
石川遼「根拠のない自信も時に必要」。
posted2015/10/26 12:05
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph by
Sonoko Funakoshi
あれは2年前のシュライナーズホスピタル・オープン最終日の夕暮れだった。優勝争いの末、2位になった石川遼が口にした言葉は、口調は静かだが響きは妙に強烈だった。
「2009年に(日本で)賞金王になったとき、日本で3、4勝していたとき。今はもう、あのときの精神状態ではやれない」
そう言った石川は、2位に食い込んだ興奮も喜びも表わさず、淡々と黙々と自分の歩みを振り返った。あのときの精神状態――それは、言い換えれば「恐いもの知らず」という意味だった。
「知らないことが多すぎた。成功体験、失敗体験、どちらの絶対値も少なかった。両サイドにOBがあってもドライバーで打ち終わるまで(OBがあることを)知らなかった……みたいな感じだった。高校2、3年だったからそういう感じでやっていて、日本でたまたまうまくいった。あれから時間が経って、いろいろ苦しい時期があって、今はメンタル的にリカバリーできているのかな」
米ツアーに来て「恐いもの」を知ったと彼は言った。両サイドにはOBもハザードもあることを知った。だから、2位になったあの2年前の大会では「攻めない攻め」、「攻めすぎない攻め」を心がけ、「1日4アンダー」をクリアすることを何よりの目標にしていた。
言うなれば、かつての「恐いもの知らずのゴルフ」が「賢いゴルフ」に進化した状態だった。
取り戻した攻める姿勢と、「あのとき」の違い。
昨年大会の石川も、その延長線上にあった。初日は103位と出遅れた。が、2日目に65位まで浮上してぎりぎりで予選を通過すると、3日目は42位、最終日は28位へと巻き返していった。「1日4アンダー」にこだわり、スコアメイクを心がけたからこそ、日々の挽回が可能になった。
その流れのまま、今年の大会を迎えるものだと思っていた。だが、TPCサマリンにやってきた石川の視線は、一昨年や昨年とは異なるところに向けられていた。
「スコアにこだわらず、1打1打、逃げずに自然体で攻めていく」
それは一見、一昨年の大会で「もうあのときの精神状態ではやれない」と言った「あのとき」へ、逆戻りしようとしているようにも見えた。しかし、今年の4日間を眺めていたら、そうではないことが徐々にわかってきた。