ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
松山、石川、岩田が戦う“格差社会”。
三者三様の異なるスタートライン。
posted2015/10/25 10:30
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph by
AFLO
松山英樹は時差ボケに苦しんでいた。
世界のエリート選手が集結した10月のプレジデンツカップ最終日翌日、韓国から米国入りした月曜日のことである。
成田からの機中では、珍しくちっとも眠れなかった。2015-16年シーズンの開幕戦・フライズドットコムオープンが開催されるカリフォルニア州ナパ。宿舎に正午に到着するなり、睡魔は猛烈な勢いで襲ってきた。
白昼深い眠りにつけば、時差調整に影響する。「3時間だけ昼寝だ」と決めた。「ベッドに入ると熟睡してしまうから、ソファーで寝よう」
だが、16時間の時差から来る睡眠欲はそう甘くはない。
目が覚めた。時計は既に午後6時。「やっちゃった……」。おなかも空いた。「でも、なんだか外に食べに行くのも面倒くさいなあ」。寝ぼけ眼で考えを巡らせていた時、“先輩”から連絡があった。
「カレー、あるよ」
隣の棟に宿泊していた岩田寛からだった。
松山にとって岩田は同じ東北福祉大出身のプロである。昨年11月の世界選手権シリーズ(WGC)HSBCチャンピオンズで3位に入り、晩夏の米ツアー下部選手とランキング下位選手などによる全4戦の「入れ替え戦」を通過。夢のPGAツアーにこぎ着けた。
岩田のチームスタッフが作った当日の晩御飯。松山は好都合とばかりにごちそうになり、腹も心も満たした。
「日本人が3人になったことが一番ワクワクする」
その翌日火曜日、岩田は午前中から石川遼と試合前の事前ラウンドを行った。ちょっぴり寝坊して、スタートが予定より遅れた。しかしそれで石川が気を悪くするはずもない。「今年はツアーで日本人が3人になったことが一番ワクワクする」と新たなツアーメンバーを大いに歓迎したのである。
3人はこの開幕戦でいずれも開催コースのあるリゾート内に寝泊まりし、和気藹々としながらも、それぞれが日々練習と試合に打ち込んだ。近づき過ぎず、離れ過ぎず。程よい距離間を保ちながら、新シーズンを迎えた。