スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
メッシの反逆、SD解任、会長の告発。
バルサはいかに結束を取り戻したか。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byREUTERS/AFLO
posted2015/06/13 10:50
CL決勝後、メッシとシャビは2人だけでトロフィーを手に撮影に応じた。
それぞれがエゴを捨て、チームのために行動した。
まず渦中のバルトメウはシーズン終了後に前倒しで会長選挙を行う、つまり自身の首をソシオに捧げることで事の鎮静化を図った。この決断は「就任以降、最高の勇断」と地元メディアに評価されている。
監督と対立したメッシも周囲の配慮に感謝したのか、その後は自身のゴールよりチームを勝たせようとするプレーが目立つようになっただけでなく、試合後のインタビューに応じて監督との不仲を否定するなど、ピッチ内外でチームの利益を意識する言動を見せるようになった。
当のルイス・エンリケは重大な規律違反を犯したメッシに相当怒っていたそうだが、それがチームの利益にはならないと訴えたシャビら主力選手たちの説得に従い、自身が折れて何の処分も科さないことを決める。その後は良く言えば柔軟な、悪く言えば妥協した態度でチームと向き合うようになった。
「選手を入れ替え過ぎだ」と言われればローテーションの割合を減らし、フル出場を望むメッシとネイマールは常にピッチに置き続けた。この決断によってチームのパフォーマンスは安定し、メッシは過去数年で最高のパフォーマンスを見せはじめ、ネイマールは毎試合のようにゴールを決めるようになった。
自身のやり方に固執せず、選手たちの要求を飲み込むことでそのポテンシャルを引き出したルイス・エンリケ。ピッチ上のリーダーとしての自覚をはっきりプレーで示すようになったメッシ。衝突を繰り返した2人のリーダーがチームの勝利のためにエゴを捨て、歩み寄ったことでバルサは危機を乗り越えることができたのだ。
出場機会を失ったシャビ、ペドロの貢献は大きい。
とはいえ、この危機を乗り越える上では「周囲」の力が欠かせなかったのも事実だ。
特にベンチ生活が続く中、文句1つ言わずキャプテンとしてチームをまとめたシャビが果たした役割は大きい。指揮官の説得を受けて残留を決意したにもかかわらず、満足いくプレー時間を与えられなかった彼だが、それでも常にチームの利益を第一に考え、ピッチ内外で自分にできることをやり続けた。それはスアレスの加入により途中出場が多くなったペドロについても同じことが言える。
過去の功績を鼻にかけず、今できる役割を全うしてきたベンチメンバーである彼らの存在なしには、チーム全体が揺るぎない結束力を保つことはできなかったかもしれない。
今季のバルサは、攻守共に個の力でライバルをねじ伏せてきた印象が強い。だがその裏にチームメートをリスペクトし、個人よりチームの利益を優先して戦う意識がなければ、これだけの成功を手にすることはできなかったのではないだろうか。