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アトレティコ復帰のF・トーレス。
帰還の裏にある「愛」という戦略。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byMarcaMedia/AFLO
posted2015/01/28 10:30
F・トーレスは最大のライバルであるレアル・マドリーとの国王杯で2ゴールを決め、チームを勝利に導いた。
トーレスが象徴するアトレティコへの「クラブ愛」。
それにシメオネがトーレスに期待しているのは、プレーだけではない。
トーレスの獲得が決まって以降、彼は繰り返し「彼の復帰と共に、我々はクラブへの帰属意識を取り戻すことができる」といった言葉を口にしている。
帰属意識。言い換えれば、クラブ愛。それはアトレティコがさらなる成長を遂げていく上で鍵となる重要な要素だと、シメオネは考えている。
シメオネの就任以降、アトレティコは毎シーズン重要なタイトルを獲得してきたが、その傍らで毎年のように攻撃の格となる選手を失い、チームの再編成を強いられてきた。
今後そのような主力選手の流出を防ぎ、チームを継続的に強化していくためには、タイトルを獲れるチームだからでも、良い監督の指導が受けられるからでもなく、アトレティコを愛し、アトレティコでプレーすることを望む選手をチームの中心に据えていく必要がある。
クラブを心から愛している選手は、より良い条件のオファーを受けてもすぐに飛びつくような真似はしない。クラブも同様に、そのような選手を簡単に手放すことはない。だからこそ必要に迫られてコスタは売っても、クラブ生え抜きのコケはまず売らない。そのような強い絆でクラブと結ばれた選手が多ければ多いほどチームの結束は強まり、戦力も安定していくものだ。
本気で、ビッグクラブと競うために。
さらにトーレスの加入は、国際的なマーケティング戦略においても大きな意味を持つ。
限られた戦力を最大限に生かすシメオネの手腕によってトップレベルに至った今、さらなる成長を目指すためにはピッチ外の部分でもビッグクラブと渡り合える力を付けていかなければならない。世界的に人気があるトーレスはクラブの認知度を飛躍的に高め、世界規模でファンを増加するきっかけとなり得る存在なのだ。
もちろんスター選手の放出を防ぐためには、経済力の強化も必須だ。中国の大富豪にクラブの20%の株を売却し、代わりに4500万ユーロの資金を手にしたクラブの決断も、そのために他ならない。アトレティコは今、あらゆる面でビッグクラブと競えるクラブに成長しようとしているのだ。