スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
アトレティコ復帰のF・トーレス。
帰還の裏にある「愛」という戦略。
posted2015/01/28 10:30
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph by
MarcaMedia/AFLO
「家に帰るって素晴らしいことだ。いったい自分が何をしてきたらこれだけの歓迎を受けられるのか、みんないつか説明してくれよ!」
1月4日、13時50分。2人の子供と共にビセンテ・カルデロンのピッチに姿を現したフェルナンド・トーレスは、マイク片手にそう言って7年半ぶりとなる“帰宅”の挨拶を行なった。
「長い間この瞬間を待ち望んできた。そして遂に、ここにいる。今は早くカルデロンでプレーしたい。もちろん、ロヒブランコ(赤白)のシャツを着てね」
この日集まったファンの数は4万5000人超。スペイン人選手のプレゼンテーションとしてはセスク・ファブレガスの3万5000人やダビド・ビジャがバルセロナに加入した時の3万5000人を上回る、スペイン史上最高の人数がスタンドを埋め尽くした。この日お披露目された背番号19のユニフォームは、2日間で2000枚以上が売れたという。
1995年の入団から、アトレティコのアイドルであり続けた。
とはいえ、それも驚くことではなかった。エル・ニーニョの愛称で知られるトーレスは、アトレティコ史上1、2を争う人気を誇るアイドルだからだ。
1995年に11歳で下部組織に入団し、2001年に17歳でトップチームデビュー。翌シーズンに当時2部にいたチームの昇格に貢献すると、以降はエースストライカーとして5シーズン連続で二桁得点を挙げ、史上最年少の19歳でキャプテンまで任された男である。
その人気はリバプール移籍後も衰えることがなかった。昨季のチャンピオンズリーグ準決勝。チェルシーの一員として7年ぶりにカルデロンのピッチに立った彼に対し、試合の前後に昔と変わらぬ応援歌がスタンドに響き渡ったシーンは、今も記憶に新しい。
しかし、それでも今回の復帰に際しては賛否両論があった。全盛期のキレを失って久しく、3月には31歳の誕生日を迎える彼のパフォーマンスを疑問視する人々が少なからずいるからだ。