スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
アトレティコ復帰のF・トーレス。
帰還の裏にある「愛」という戦略。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byMarcaMedia/AFLO
posted2015/01/28 10:30
F・トーレスは最大のライバルであるレアル・マドリーとの国王杯で2ゴールを決め、チームを勝利に導いた。
識者やファンも彼の現在の能力を疑問視していたが……。
チェルシーへ移籍した2011年以降、トーレスはCLやEL、FAカップといったチームタイトルを手にする傍ら、個人的にはケガも多くイレギュラーなパフォーマンスに終始してきた。今季は実質的にお払い箱とされる形で、チェルシーからミランに2年契約でレンタル移籍。そのミランでも早々にフィリッポ・インザーギ監督の構想から外れ、10試合出場1得点という寂しい結果しか残せなかった。
「彼はもう落ち目のように見える。以前のように相手ゴールまでボールを持ち運ぶパワーはもうないのではないか」
現在のトーレスをそんな風に評価しているのは、元レアル・マドリー監督のファビオ・カペッロだけではない。12月末にスポーツ紙『アス』がウェブサイトで行なったアンケートでは、「トーレスは不要」との回答が50%強に上っていた。戻ってきたこと自体は嬉しいけれど、実際どこまで活躍できるかは分からない。そう考えているファンは意外と多いのである。
シメオネ「我々の攻撃に奥行きを加えてくれる」
しかし、そんなトーレスの獲得を熱望したのは、他でもないシメオネだった。デビュー当時の2年間、チームメートとしてロッカールームを共有したトーレスの復帰に際し、指揮官はこう言っている。
「フェルナンドは我々の攻撃に奥行きを加えてくれる。マンジュキッチ一人では不可能だった奥行きをね」
確かにパワーとスピードに任せてDFライン裏のスペースを突いていく彼のプレーは昨季の得点源ジエゴ・コスタに近い、アトレティコのカウンタースタイルが求めるものだ。問題は彼がトップフォームを取り戻すことができるかどうかなのだが、恐らくシメオネにはその自信があるのだろう。