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2014年の格闘技の大晦日を照らした、
DEEPとパンクラスが命を削った光。 

text by

橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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photograph bySusumu Nagao

posted2015/01/08 10:40

2014年の格闘技の大晦日を照らした、DEEPとパンクラスが命を削った光。<Number Web> photograph by Susumu Nagao

対抗戦は負け越したものの、唯一の王者対決を1R決着で制した石渡伸太郎。何とかパンクラスの面目は保たれた。

乗り込んだパンクラス勢も抱いていた危機感。

 しかし危機感を抱いていたのは、パンクラス勢も同じだった。大将として大塚隆史とのバンタム級王者対決に臨んだ石渡伸太郎は、試合前にこう語っている。

「負けたら帰る場所がない」

 副将戦でDEEPフェザー級王者の横田一則がISAOに判定勝ちし、この時点でDEEPの勝ち越しが決定。それでも石渡はパンクラスを背負って闘った。

 序盤はタックルで主導権を握られかけたが、ヒザ蹴りを効かせるとパンチのラッシュ。最後はタオル投入でTKOを呼び込んだ石渡は、険しい目つきのままでマイクを握った。

「俺が、第2代バンタム級キング・オブ・パンクラシストです。パンクラスをナメた奴はぶっ殺します」

2014年の大晦日は、決闘が行なわれた日として記憶される。

 DEEPの選手たちは居場所を失うかもしれない闘いを受けた。パンクラスの選手たちは帰る場所がなくなるかもしれない闘いに乗り込んだ。結果としては3勝2敗でDEEPの勝利。だが佐伯は「痛み分けだった」と言う。大将戦で完敗を喫したからだ。パンクラス勢は王者2人が勝ったのに対し、DEEP王者は1勝1敗。王者の負けは、団体としての“格”にも関わってくる。この対抗戦、勝ったDEEPも大きなダメージを受けたのである。

 対抗戦で負けたパンクラス。チャンピオンを“殺られた”DEEP。それぞれが痛手を負い、引き換えにファンからの賞賛を手に入れた。対抗戦の興奮と緊張感は、2014年の日本格闘技界において最大級のものだったと言っていい。この大晦日は、“お祭り”ではなく“決闘”が行なわれた日として、格闘技ファンの記憶に残り続けるだろう。

「本当にここで大会をやっていいのかなと思ったけど……とにかく今回は僕が(大晦日・さいたまの伝統を)つなぎました」

 深夜0時すぎ、佐伯が総評コメントを終えると、記者陣から拍手が起こった。それは、あらゆるリスクを背負い、無謀とも思える大晦日興行を乗り切ったプロモーターへの、心からのねぎらいだった。

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