ブラジルW杯通信BACK NUMBER
11人のチームと、“独裁者”の決勝戦。
「至高のW杯」はどちらの手に。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2014/07/11 16:30
ブラジルに大勝し、クローゼはW杯通算最多となる16ゴール目も決めた。チーム状態もまさに万全と言えるドイツが、南米の地で王座に着くのか。
アルゼンチンは本当にノーチャンスなのか?
2大会連続の決勝進出を逃したオランダ代表FWロッベンは、失意の敗退後、独誌「キッカー」に本音を漏らした。
「優勝するのは間違いなくドイツだ。アルゼンチンに勝機はない」
バイエルンのエースが語ったように、アルゼンチンは本当にノーチャンスなのか。
アルゼンチンは、FWメッシという史上最強クラスのストライカーありきのチームだ。代表監督サベージャは、“戦術メッシ”によって大会を勝ち上がってきた。
メッシの決勝ゴールによって2-1と快勝したボスニアとの初戦、アルゼンチンの戦術は後半から「4-3-3」へ変わった。試合後、“3トップへの変更を望んだのは指揮官か、それともメッシか?”という議論が起こった。
エースはまったく悪びれることなく「3トップの方がプレーしやすかったから」と言ってのけ、サベージャも別段否定しなかった。
敵味方すべての選手の意識を支配するメッシの存在感。
この代表を勝たせるための方法はただ一点、メッシをいかに気持ちよくプレーさせるかにある。若い頃、国家社会主義に傾倒したサベージャに迷いはない。当時、傾倒したのは独裁者ペロンだが、21世紀の今、アルゼンチンが頼るべきはメッシだ。
指揮官は、もちろん他の選手たちの不満にも理解を示している。サベージャ自身、MFとして現役時代に代表まで上り詰めたが、偉大なFWマラドーナの影に隠れた選手だった。指導者となってからも、'98年大会でアルゼンチンを率いた名将パサレラのアシスタントコーチとして、長く表舞台とは縁のない半生を過ごしてきた。
'09年に初めて監督として指揮を執ったエストゥディアンテスでリベルタドーレス杯を制し、代表監督になった。その頃から、選手にかける言葉は今も変わらない。
「つまるところ、サッカーは陣取り合戦だ。より早く、よりうまくスペースを奪い取った者が勝つ」
オランダとの準決勝で、アレナ・デ・サンパウロの空間を支配していたのは、動かぬメッシだった。
メッシが放つ存在感は異質のレベルに突入している。たとえボールを持たずとも、メッシはグラウンドにいる彼以外の21人全員の意識に入ってくる。一瞬でも隙を見せれば、メッシの一撃は致命傷になる。