野ボール横丁BACK NUMBER
新天地で甦る小笠原、涌井、一岡。
競争を時に上回る「お前しかいない」。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byNaoya Sanuki
posted2014/05/08 10:50
新天地ロッテで先発に固定され、復活を期す涌井秀章。心機一転、今年は三代目J Soul Brothersの「SO RIGHT」を入場曲にマウンドへ向かう。
巨人から人的補償で広島へ移籍した一岡竜司も。
今シーズン、「必要」を力に変えた最たる例は、好調広島をけん引する新セットアッパー、一岡竜司だろう。FAで巨人に移籍した大竹寛の人的補償として巨人からやってきた23歳の本格派右腕だ。
巨人では2年間で一軍登板は13試合にとどまったが、広島で働き場所を得たことで才能が一気に開花した。
巨人に居続けてもいずれは頭角を現しただろうが、「咲き方」は違ったはずだ。巨人やソフトバンクのように選手層の厚いチームは、まずは熾烈なチーム内の競争に勝たなければならない。確かに、そうして這い上がってきた選手の逞しさもある。だが、おまえしかいないと託されたときの選手の強度が、その逞しさを上回ることもある。
それが今の一岡の強さであり、もっと言えば、巨大戦力を持つ巨人やソフトバンクにはない、広島の強さだ。選手層の薄さはとかくマイナス要因として語られがちだが、自分が戦列を離れたときのチームに与えるダメージの大きさを考えれば、自然と集中力も増すし、故障も減るものだ。
今年の広島に感じる「必要」の力。
今年の年俸総額ランキング1位は巨人で、その額は41億3485万円だ。2位のソフトバンクは30億8260万円。ちなみに11位の広島は16億3419万円だ。
単純な理屈だが、選手層が薄いチームほど、一人の選手にかかる期待は大きい。つまり、このランキングは「必要」という力を有しているかどうかの逆ランキングでもあるわけだ。
かつて、三谷幸喜が書いた法廷を舞台にしたテレビドラマ『合い言葉は勇気』で、役所広司が扮する「偽弁護士」の暁仁太郎が、証言台に立つことをしぶる、ある人物をこう諭す場面があった。
「人間、どん底にいる時、何が一番の救いになるか、教えてやるよ。それは、この世に自分を必要としている人間がいることに気がついた時だ。その時、人間は、この世に生まれて来たことの意味を初めて知る。今まで生きてきたことの大切さに、やっと気付く。(中略)考えてみろ、今までの人生で、こんなに人に必要とされたことがあったか」
「必要」の力。今年の広島には、それを感じる。