MLB東奔西走BACK NUMBER
本拠地デビューに空席が目立った訳。
田中将大への地元ファンの厳しい目。
text by
菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi
photograph byGetty Images
posted2014/04/11 11:00
平日のナイターとはいえ、空席が目立つヤンキー・スタジアム。田中将大は自らの右腕で地元のファンの心を掴むことができるのか。
日本人投手たちがメジャーで感じる、ある“驚き”。
「ここは世界一のリーグ。いくら自分の最高の投球をしたとしても打たれることがある。アダム・ジョーンズが田中について話してくれたことだが、それが日本の時より多くなるだろうということだった」
この日YES(ヤンキースの試合を中継するニューヨークのTV局)で解説者を務めていた、かつてヤンキースのエースとして完全試合も達成したことがあるデビッド・コーン氏が話していた。この解説を聞いていて、これまでの20年以上のメジャー取材生活の中で何人もの日本人メジャー投手たちと話をしてきて彼らから聞き出した、ある“本音”を思い出していた。
「1試合投げている中で、誰にだって失投はある。日本ならたとえ失投があったとしても、打者が打ち損じてくれたり大きなミスにならなかった。でもメジャーでは絶対に見逃してくれないし、それが相当なダメージになってしまう」
「日本なら下位打線になればちょっと息を抜ける部分があったが、メジャーではちょっとミスすれば普通に本塁打を打ってくる。全然気が抜けないし、ずっと全力投球していかないといけない」
オリオールズ戦で田中が本塁打を打たれたのも9番打者だった。この日の投球は、まさに先人達の本音を投影しているような内容に映った。
ヤンキース・ファンの心に残る苦い過去。
とはいえ、苦しみながらも100球前後で7回を投げチームに勝つチャンスを残した(同点)状態で交代したのだから、改めてエース級の仕事をしたということは十分に評価すべきだろう。終始神経をすり減らす投球を強いられながら、最も田中らしい投球を見せたのが最後の7回だったということも、先発投手としての類稀なる能力を十分に見せ付けるものだったといえる。
それでは、何故ヤンキース・ファンは冷静に田中を捉えているのだろうか? おそらくそれは彼らにとって苦い“過去”があるからだ。
かつてヤンキースは、田中ほどではないが破格の契約で伊良部秀輝投手と井川慶投手を獲得した。そしてその際も日米メディアが大々的に報道し、ファンの期待を膨らませたものだった。
しかし実際の彼らはヤンキースのエースになるどころか、ファンに失望感だけを残して短い期間でヤンキースから姿を消していった。だから現在の報道を鵜呑みにせずに、田中に対し多少なりとも疑心暗鬼になっている部分もあるのだろう。まずは田中の真の実力を見極めようとしているのではないだろうか。