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<米ツアー挑戦の苦悩と光明> 有村智恵 「ゴルフが怖くなった時期もあった」
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byShizuka Minami
posted2013/10/30 06:01
キャディと意思疎通できなかった原因は言葉の壁。
どのタイミングで何を伝え、どうアドバイスを貰えばいいのか。
有村はクラブ選択もラインの読みも基本的に自分で決める。キャディに話しかける時は、アドバイスをもらうというよりも大半は最終確認のため。しかし一人目のキャディは一から十まで全部お世話したいタイプで、有村がクラブ選択をどうしようかと逡巡し、決断して振り向いたら、キャディがすでにクラブを選択し、手渡されたということも一度や二度ではなかった。
必要とする時にだけ的確なアドバイスをしてほしい。簡単な言葉だが、言えなかった。
一方で、風やコースなど有村が一人で決めかねる状況では、言葉の問題が壁になった。
「ここでは追風に感じるけれど、ピンは右から吹いているよね」
そう聞きたくても、限られた時間の中で英語で端的に表現するのは難しく、曖昧なままで打ったこともある。
「(聞けなかったことは)大きなディスアドバンテージだったと思います」
「悩んでいる暇があったら、英語勉強しようと思う」
先輩たちに悩みを打ち明けると、「日本は空気を読む慣習があるけれど、アメリカではそれがないから、きちんと言葉で伝えないと。こっちに来た以上、その努力をしないといけないよ」と諭された。上手く話せないことも大きなストレスになっていたが、不満も要求も言葉に出さなければ相手には伝わらない。
「今は、できるだけ自分のフィーリングを伝えるようにしています」
周囲とスムーズにコミュニケーションをとるために英語の勉強をしているが、今ではネイティブの速い英語も聞き取れるほどになった。試合で結果が出なかった時でさえも、「悩んでいる暇があったら、英語勉強しようって思うんです」と笑いながら話すが、悔しさを勉強にぶつけてきた成果は確実に実っている。
結局、一人目のキャディとは、5月中旬に関係を解消し、現在は違うキャディと回っているが、まだ阿吽の呼吸とまではいかない。試行錯誤しながら、自分のスタイルを確立していこうとしている。