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若手に追い出して欲しかった……。
松田直樹にみるベテランの存在価値。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byNIKKAN SPORTS/AFLO
posted2010/12/07 10:30
中山も伊東もカリスマとして戦い抜き、退団していった。
長年ひとつのクラブに在籍した選手で例を出すならば、昨季ジュビロ磐田を退団した中山雅史も今年限りで清水エスパルスを退団する伊東輝悦も、後継者の成長によって徐々に出場機会が減ってしまうという“前振り”があった。「カリスマ」退団の際には、サポーターを含めクラブを応援する多くの人たちが納得できる形が用意されなければいけないのだ。
16年間、第一線で働いてきた松田がマリノスを去るという重みを、どれほどクラブ側は理解していたのか。
例えば鹿島アントラーズが長年チームを支えてきた秋田豊に契約非更新を通達する際、鹿島の強化部長はその席で涙が止まらず、自分の口から通達できなかったという。わざわざ同席した社長が、クラブとしての辛い決断を通達したのだ。チームを愛する者たちにとっては、実際、それほどの重さなのである。
ACL出場権を獲得すれば試合も増えることになるため、松田との契約に関しては流動的であったのは事実だ。もちろんクラブ側の事情も理解できる。ただ、出場権を逃がして松田と契約しないことを断固として決めたのならば、それ相応の誠意ある対応が必要だった。断腸の思いを、松田に理解してもらわなければならなかった。これでは長年チームを支えてきた松田や他の選手に対するリスペクトの欠如とサポーターに受け取られても致し方なかった。
真にクラブが大事にすべきものとはいったい何なのか?
松田の今季年俸は推定で3500万円とされる。松田は年俸よりもマリノスで続けることを第一義としていたために、大幅に下がっても提示を受けたはずである。マリノスには大幅ダウンという選択肢もなかったのだろうか。
Jリーグのクラブ全体として、今はどうしてもベテランに対して厳しい風潮がある。パフォーマンスが低下してしまえば、容赦なく切られてしまうケースも続出している。
しかし、欧州のクラブに目を移せばマンチェスターUのライアン・ギグス(37歳)やACミランのフィリッポ・インザーギ(37歳)など、力的には衰えようともそのクラブの「顔」となった選手はクラブから大事に扱われているのが常だ。
その理由はもちろん、彼らがクラブの伝統を、そして何より大事なメンタリティーを若い選手に引き継いでいく大きな存在であるからだ。
松田たちがマリノスを去った今回の問題を契機に、日本でもベテランたちの存在意義をもう一度しっかりと考えてみる必要があるのではないだろうか。