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若手に追い出して欲しかった……。
松田直樹にみるベテランの存在価値。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byNIKKAN SPORTS/AFLO
posted2010/12/07 10:30
横浜F・マリノスのホームスタジアム、日産スタジアムはブーイングに包まれ、サポーター席からは1人の選手の名前がコールされていた。
2010年シーズンを戦い終え、木村和司監督や嘉悦朗社長がサポーターに向けて挨拶を行なった最終戦のセレモニーは異様な光景となった。
サポーターたちの叫び声によって挨拶の言葉はかき消されていった。
彼らは8位で終戦した今季の成績に、悲しみと怒りの声を挙げていたわけではない。松田直樹を筆頭に山瀬功治、清水範久、坂田大輔、河合竜二といったマリノスを長年支えてきた選手たちが次々と来季の契約非更新を伝えられてクラブを去ることになった事態を嘆くとともに、クラブ側の対処を激しく責めていたのだ。
1995年から16年にもわたってマリノス一筋でプレーし、マリノスが獲得したすべてのタイトルを経験した“ミスターマリノス”こと松田直樹は、唇を震わせ、目を真っ赤にしながら自分に向けられたエンドレスのコールを聞いていた。
試合直後の極度の疲労の中で松田に告げられた戦力外通告。
松田に対するクラブ側からの一方的な契約非更新は大きな波紋を呼んだ。
事の成り行きを簡単に説明しておこう。
Jリーグのクラブは規約上、来季の契約を結ばない選手に対しては「リーグ戦が終了した日の翌日から5日後」までに選手側に通知しなければならない。松田は11月27日のガンバ大阪戦(アウェー)の後、大阪から横浜のクラブハウスに移動する際に、下條佳明チーム統括本部長に呼び出されて非更新の通達を受けた。
松田は試合直後の極度の疲労感などもあって心の準備もできぬまま、突然クビを言い渡されてしまう形となった。「頭が真っ白になって、何かを考えられる状況ではなかった」と松田は後にそのときのことを語っている。
さらに山瀬が、非更新になるという第一報をクラブ側からでなく代理人からの連絡で聞かされていたことまでが明るみになり、ますますサポーターの反発は強くなっていった。嘉悦社長もこの不手際に関して、サポーターの面前で直接謝罪しているほどだ。
単なるプロスポーツマンのクビとは異なるこの騒動の本質。
契約非更新の伝え方に問題があったのは確かだが、それについては後述したい。まずもって今回の問題の本質はどこにあるのかを、より明確にしておきたいのである。
プレーを評価されなければクビとなってしまうのはプロスポーツである以上、仕方のないことでもある。
しかし、今回はそういう問題では無かったと考える。
この騒動は、近年の横浜F・マリノスというクラブに中長期的な世代交代をどう推し進めていくかというグランドデザインが無かったことに遠因があったのではないか。若手たちを中堅、ベテランと競争させながら、どのポジションにどのように使っていくのか。強化部門と監督には共通認識が求められ、サポーターや選手自身にも納得いくように自然とチームを変化させていくのがフロントの役割であるはずだ。