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若手に追い出して欲しかった……。
松田直樹にみるベテランの存在価値。 

text by

二宮寿朗

二宮寿朗Toshio Ninomiya

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photograph byNIKKAN SPORTS/AFLO

posted2010/12/07 10:30

若手に追い出して欲しかった……。松田直樹にみるベテランの存在価値。<Number Web> photograph by NIKKAN SPORTS/AFLO

マリノスのフロントが次々と人事異動で変わり……。

 だが、現実はどうだったか。

 近年のマリノスは、社長や強化部門のトップが目まぐるしく交代するクラブでもあった。下條氏は今季チーム統括本部長に就任したばかりだし、日産OBの木村監督も今季からの指揮だ。それに嘉悦社長も昨年マリノスに来て、今季社長に就任したばかりである。ここ数年のマリノスは、フロントと現場が一体となって中長期的にクラブを見つめて強化を図ってきたとはとても言い難い事態が続いていたのである。

 現場を任された木村監督は17歳の小野裕二や20歳の端戸仁の台頭を促し、前線では若手を積極的に登用しつつ世代交代を図ろうとするその一方で、松田や清水たちベテランも試合では重用してきた。松田に関して言えば、シーズン前半こそ右ひざ手術の影響もあって出遅れたとはいえ、8月7日のベガルタ仙台戦以降のリーグ後半戦は、ボランチとセンターバックでほぼ先発として定着しているほどだ。

 全盛期に比べればパフォーマンスは落ちているものの、松田の経験に裏打ちされたプレーには円熟味さえ感じさせるものがあった。中澤佑二、栗原勇蔵という日本代表のセンターバックがケガで不在となったときには、若手ではなく松田が最終ラインに回るケースも増えた。結局は松田の力に頼らざるを得なかったのが今年のマリノスの実情だったのだ。

 松田を脅かすような若手がなかなか出てこなかったという現実もあるが、ボランチとセンターバックを併用でき、パスをさばくこともできる松田のようなタイプを育ててこなかったクラブ側にも育成面で責任はあると言える。

ポジションは与えられるものではなく、奪うものでは?

 最後の試合が終わってロッカールームから出てきたとき、松田直樹は言葉を選びながら、噛み締めるようにこう言っている。

「これまでマリノスには契約してもらってきたし、本当に感謝しているんです。まあ、いつかこういう日が来るとも思っていました。でもどうせ出されるなら、俺を追い出して欲しかった。追い出される形ではなかったのが自分にとっては凄く残念なことでした」

「追い出される」という表現は、ポジションを奪われることを意味する。松田が過去、井原正巳のポジションを奪って、出場機会を求めた井原を他のクラブに“追い出した”ように松田もそのことには覚悟ができていた。

 ポジションは与えられるものではなく、奪うもの――。

 後継者が台頭するようになれば、松田は壁であり続けようとしながらも「いつか来る日」を現実として受け止めるために、心の準備を始めていたことだろう。そういうスムーズな世代交代を図れないという事実は、マリノスのここ数年の低迷に直結しているようにも思う。ベテランを自然と追い出す形を取れないため、無理やりに追い出す形になってしまう。そう見えたからこそサポーターの反発を食らったのだ。

【次ページ】 中山も伊東もカリスマとして戦い抜き、退団していった。

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