スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
世界最高のGKがまさかのベンチ。
カシージャスの鬱屈としたシーズン。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byAFLO
posted2013/09/03 10:30
リーガ開幕戦、サンティアゴ・ベルナベウのベンチで戦況を見つめるカシージャス。
カシージャスは「静」、ロペスは「動」。
カシージャスは無暗に飛び出さず常にゴール前で準備を整え、読みに頼らず優れた反射神経を生かしてシュートに反応する、いわば「静」のGKだ。一方、ディエゴ・ロペスは11人目のフィールドプレーヤーとして積極的に前に飛び出す守備が特徴の「動」のGKであり、ハイボールに対する強さやキックの精度といった点ではカシージャスを上回る。
昨季のレアル・マドリーは最終ラインを押し上げ高い位置からプレスをかけるチームだったので、カシージャスより守備範囲の広いディエゴの方がチームに適したGKだというモウリーニョの主張は理に適っていた。
アンチェロッティも同様に最終ラインを押し上げて守るだけでなく、最後尾からショートパスをつないで攻撃を組み立てるプレースタイルを目指している。そう考えると、どちらのGKが適役かははっきりしている。
また、これまでアンチェロッティは常に長身のGKを好んで起用してきたという事実がある。
過去のデータは、ロペスの優位を示唆している。
中でも象徴的な起用の決断は2つ。1つはパルマを率いた1年目、シーズン序盤にそれまで正GKだったルカ・ブッチ(180cm)を外し、当時18歳のジャンルイジ・ブッフォン(191cm)を抜擢したこと。もう1つはユベントス時代の2年目にアヤックスからエドウィン・ファンデルサール(197cm)を獲得し、クラブの象徴的存在だったアンジェロ・ペルッツィ(181cm)を外したことだ。これらの決断により、ブッチ、ペルッツィは共にほどなくクラブを去っている。
他にも、ミランを率いた8シーズンの間に正GKを務めたクリスティアン・アッビアーティ(191cm)、ジダ(195cm)、ジェリコ・カラッチ(202cm)、チェルシーのペトル・チェフ(196cm)、パリ・サンジェルマンのサルバトーレ・シリグ(192cm)など、アンチェロッティが率いるチームでは常に190cm超の長身GKが起用されている。
翻ってカシージャスの身長は185cmで、196cmのディエゴ・ロペスとは11cmの差がある。それが「小さなディティール」の1つである確証はないが、少なくとも過去のデータはディエゴ・ロペスの優位を示唆していると言えよう。