スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
世界最高のGKがまさかのベンチ。
カシージャスの鬱屈としたシーズン。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byAFLO
posted2013/09/03 10:30
リーガ開幕戦、サンティアゴ・ベルナベウのベンチで戦況を見つめるカシージャス。
1つのケガが選手のキャリアを大きく変える。スポーツの世界で時折生じる運命のいたずらが今、世界最高のGKとまで言われた男を苦しめている。
ディエゴ・ロペスとの定位置争いに敗れ、控えGKとして新シーズンをスタートしたイケル・カシージャスである。
長年不動の守護神としてレアル・マドリーとスペイン代表のゴールマウスを守ってきたカシージャスの運命は、今年1月に負った左手親指付け根の骨折をきっかけに一変した。
この負傷により1カ月の離脱が確定して間もなく、ジョゼ・モウリーニョ前監督はセビージャで控えに甘んじていたディエゴ・ロペスを獲得する。その後、レアル・マドリー出身のロペスが安定したプレーで周囲の信頼を勝ち取ったこともあり、カシージャスは復帰後も一度もピッチに立てぬままシーズンを終えた。
それでも6月のコンフェデレーションズカップでは信頼関係の厚いビセンテ・デルボスケ監督の下、カシージャスはグループリーグ初戦と準決勝、決勝の3試合に出場。ブランクを感じさせぬ安定したプレーで復活を印象付けた。
全く平等な条件で、定位置争いに敗れた。
そして迎えた新シーズン。対立関係にあったモウリーニョが去り、「デルボスケ・イタリアーノ」(イタリア版デルボスケ)とも呼ばれる温厚派のカルロ・アンチェロッティ新監督の下、心機一転迎えた開幕戦にて、再び先発落ちという現実に直面したのである。
カシージャスにとって、今季の先発落ちには昨季のそれとは全く異なる重さがあった。不運なケガで離脱を強いられ、復帰後も対立するモウリーニョの冷遇を受けた昨季とは違い、今季は全く平等な条件の下でディエゴ・ロペスとの定位置争いに敗れたからだ。
開幕戦でディエゴ・ロペスを先発起用した理由を問われた際、アンチェロッティは「小さなディティールによる決断」と説明するにとどまり、それ以上の言及には応じなかった。
指揮官が言う「小さなディティール」とは何か。恐らくそれは、プレースタイルの好みではないか。この点については、奇しくも昨季モウリーニョがカシージャス外しの理由を執拗に問われた際に言及している。
「ディエゴ・ロペスの方がクロスボールへの対応に長け、守備範囲が広く、足元の技術も高い。イケルはゴール前で信じられないセーブを見せるが、私は他のGKの方が好きだ」