野次馬ライトスタンドBACK NUMBER
横浜ベイスターズ最終戦を行く。
「来年もこの場所で逢いましょう!」
text by
村瀬秀信Hidenobu Murase
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2010/10/12 12:50
ハマスタの便器はTOTO製だった。
8歳の頃から通いはじめて約27年。はじめて知った事実である。これまで何の気にもならなかったそのロゴが、この日は嫌でも目に入ってきた。これが、来季はINAXへと替わってくれるのか、それとも、この便所に来ることは……。
この日、そんな不安な気持ちで用を足した人は、おそらくかなりいたんじゃないだろうか。
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10月7日、横浜スタジアム。2010年の横浜ベイスターズの本拠地最終戦。世間的には阪神タイガースがクライマックスシリーズの自力2位通過を確定させることができるか、の一点に注目が集まっていたこの試合。今シーズンもクライマックスシリーズとはついぞ縁のなかった横浜ベイスターズは、ある意味、もう一つのクライマックスを迎えていた。
ベイスターズの親会社、TBSの身売り報道が出たのは1週間前の10月1日。3年連続90敗越えの最下位、55年ぶりの95敗なんて、一般ファンなら卒倒しそうな数字にも泰然自若としていられる我慢強い横浜ファンも、さすがにこの報道には浮足立たずにいられなかった。
TBSが球団を売却すること自体はさしたる問題ではない。それ自体は以前から噂されていたことであり、近い未来に起こることは容易に想像できた。問題は本拠地移転の噂である。横浜からベイスターズが消えるかもしれないという最悪の可能性。あるわけがないと思いつつ、この日の最終戦は、皆どこかに不安を抱いたまま球場に集まってきていたように思う。
試合前:ライトスタンドは4時半には立見席まで満席に。
さて、かく言うワタクシ。編集者から「ベイスターズネタの時は自分を見失いがちになる」と懸念されまくる、客観的であるべきライターとしてあるまじきほどのベイスターズファンである。なので、この日の最終戦の様子は、極力自分の感情を抑え、実際に起こったこと、聞いたことだけを淡々と書き綴ろうかと試みる。
午後4時。横浜公園入り口で手描きのスポーツ新聞「スポーツ神奈川」を掲げて観客を迎える名物ファン、通称“革パン”氏は、この日の最終戦も公園入り口に立ち「UNDYING STYLE 変らぬ姿勢、思い、信じ抜く気持ち FINALGAMEからはじまるYOKOHAMAの歴史・伝統 今日ここから」という見出しの新聞を持って、ファンを迎えていた。
ライトスタンドは、4時30分頃には立ち見席まで満席の状態になっていた。もちろん、最終戦の無料開放ということも理由にはあるが、この日ライトスタンドに集まった人たちは、入場料がタダだから集まってきたというような、簡単な雰囲気じゃなかった。
外野席にいた男性ファンは言う。
「いや、いつもと同じ最終戦ですよ。報道では来季の本拠地移転の可能性は低いみたいだし、常識的に考えても370万都市横浜のフランチャイズを捨てて、別の都市へ行くことなどはあり得ない。ただ、元近鉄ファンの友達から『消滅するのは一瞬、親会社がそうと決めたら何もできずに気がついたらなくなっていた』という話を聞いたことがあるので、不安がないといえばウソになりますけど……」
古い友人から約3年ぶりにメールが来た。会社を休んでハマスタに来ているという。
子供の頃、一緒にハマスタまで大洋戦を観に来ていた、いとこらしき人を20年ぶりに見かけた。
内野席もいつのまにか満員に近い状態になっていた。
“いつもと同じ”最終戦である。