スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
ネイマールが乗り越えるべき
バルサのブラジル人助っ人の轍。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byDaisuke Nakashima
posted2013/06/11 10:30
6月3日、バルサ入団セレモニーでのネイマール。5万人以上の観客が新たなブラジル人スターの入団を歓迎した。
常勝軍団のバルサに今こそ必要な“遊び心”。
獲得可能なあらゆるタイトルを獲り尽くし、何年も追われる立場でのプレッシャーに耐え続けてきた選手達からは、いつしかプレーする喜びが感じられなくなってきた。
メッシがゴール記録の更新に執心し、周囲の選手達がメッシへのアシストを過剰に意識する傾向は年々強まっている。以前は観衆を魅了し、ライバルには絶望感を与えていた華麗なパスワークも、今では守備の脆さをカバーするための「守りのポゼッション」になってきた印象がある。
今もピッチ上で遊び心を感じさせてくれるのはアンドレス・イニエスタくらいだ。同様の可能性を持つチアゴ・アルカンタラはミスしてチームに迷惑をかけない事を意識するあまり、すっかり意外性と閃きに溢れたプレーを失ってしまった。
“バルサ教”のプレー哲学とハードワークを説くグアルディオラと、その教えを順守するラ・マシア出身の優等生達。以前ズラタン・イブラヒモビッチは、その関係を「哲学者と小学生達」と表現していた。確かにカンテラ出身者が大半を占めるようになった現在のバルサは、少しばかり真面目すぎるチームになってしまった感がある。
“メッシ依存”という最大の問題を解決することができるか?
「メッシが世界一の選手であり続けられるようサポートしたい」
入団会見でのネイマールは、そんな謙虚な発言を何度も繰り返していた。
同様に加入時は優等生発言に徹していたイブラヒモビッチは結局メッシのためにプレーすることができなかったが、まだ若いネイマールはうまくやっていけるように思える。
とはいえ、他のFWのようにメッシへのパスコースばかりを意識するようではいけない。クラブが5700万ユーロもの大金を払って彼を獲得したのは、メッシ依存が進むチームの停滞感を打破するためだ。そしてそのためには、彼が良い意味でエゴを出していく必要がある。
ロマーリオとフリスト・ストイチコフ、ロナウドとイバン・デラペーニャ、リバウドとパトリック・クライファート、ロナウジーニョとサミュエル・エトー。強烈な2つの個性がかみ合い、極上のハーモニーを奏でた例は過去にもある。
彼らの関係はいずれも短期間しか持たなかったが、サッカー史に残る唯一無二の輝きを放っていた。
メッシとネイマールが屈託のない笑顔を浮かべながら、ピッチ上でお互いの技を披露し合う。たとえ長くは続かなくとも、我々はそんな光景がカンプノウで見られることを期待せずにはいられないのである。