スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
ネイマールが乗り越えるべき
バルサのブラジル人助っ人の轍。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byDaisuke Nakashima
posted2013/06/11 10:30
6月3日、バルサ入団セレモニーでのネイマール。5万人以上の観客が新たなブラジル人スターの入団を歓迎した。
メッシとの共存は可能なのか。ヨーロッパでの実績がゼロの21歳に5700万ユーロも払う価値はあるのか。そもそもリーガ・エスパニョーラやチャンピオンズリーグのハイプレッシャーな試合でも力を発揮できる選手なのか――。
2年以上も語られ続けてきた移籍話が現実のものとなって以来、バルセロナの町は連日ネイマールに関する話題で持ち切りとなっている。
それらの答えを知るには新シーズンの開幕を待つ他ない。だが気の早いメディアやファンは、開幕を間近に控えたコンフェデレーションズカップのことなどそっちのけで“エル・モイカーノ(モヒカン野郎)”の話に夢中になっている。
彼らの現在の感情を表現するならば、「不安要素は多々あるが、あふれ出す期待感を抑えられない」といったところだろうか。
彼らが抱く2つの相反する感情は、恐らく過去に見てきたバルサとブラジル人“クラック(超一流の技術を持つ選手)”達の関係が根拠となっているのだろう。
近年のバルサ伝説には、必ずブラジル人プレイヤーがいた。
ロマーリオ、ロナウド、リバウド、ロナウジーニョ――。
近年のバルサの名試合や名ゴールを振り返れば、その中心にはほぼ常にブラジル人クラックがいた。
例えば、カンプノウでレアル・マドリーを5-0と粉砕した'93-'94シーズンのエル・クラシコ。この試合でハットトリックを達成したロマーリオの「コラ・デ・バカ(牛のしっぽ)」――右足インサイドにボールを密着させたままくるっと180度反転し、ラファ・アルコルタを置き去りにしたプレー――は、今も語り草となっている伝説のゴールの1つだ。
'96-'97シーズンのコンポステーラ戦では、ロナウドがマーカーにシャツを掴まれているのも意に止めず、ハーフライン付近から約60mの距離をドリブルで突進してゴールネットを揺らした。その怪物的スピードと共に、あまりの衝撃に頭を抱えるボビー・ロブソン監督の姿は当時ヨーロッパ中で話題となった。
リバウドがバルサ史上に残る“ゴラッソ(素晴らしいゴール)”を決めた'00-'01シーズンの最終節、バレンシア戦を記憶する人も多いだろう。2-2で迎えた88分、ペナルティーエリア手前でゴールを背にして浮き球のパスを受けた彼は、ボールを胸で上空に浮かせ、左足のオーバーヘッドキックでサンティアゴ・カニサレスが守るゴールマウスを破った。それはバルサに翌年のチャンピオンズリーグ出場権をもたらす、極めて重要な決勝点だった。
敵地で0-3と完勝した'05-'06シーズンのクラシコは、恐らくバルサの選手が初めてサンティアゴ・ベルナベウでスタンディングオベーションを受けた歴史的な夜となった。セルヒオ・ラモスを置き去りにする高速ドリブルからロナウジーニョが決めた圧巻の2ゴールに対し、デイビッド・ベッカムら銀河系軍団の面々は茫然と立ち尽くすばかりだった。