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<公開セミナー特別レポート2>
ファン数ワースト2位でも売上げ増へ。
千葉ロッテの地域密着型経営。
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph byAsami Enomoto
posted2013/06/18 10:30
受講した約200名は、Number Webの読者と、グロービスの受講生やOB。メモを取りながら、熱心に聞き入る人が多かった。
そんな厳しい環境下で、球団売上げを2004年と比べて約3倍に
成長させたのが、千葉ロッテマリーンズ。12球団で下から2番目にファン数が少ないと言われる千葉ロッテは、どのようにして経営改革を成し遂げたのか。
連載「スポーツで学ぶMBA講座」の番外編として5月27日に開催された、Number Web×グロービス特別公開セミナー「『千葉ロッテマリーンズの挑戦』~顧客満足度を高めるマーケティング戦略~」。プロ野球を取り巻くファン離れの現実、そのなかでもプロスポーツの経営に必要な3つの条件が厳しい千葉ロッテだが、現実を見据えることから、経営の改善策が生まれていった。
千葉ロッテマリーンズ事業本部企画部・原田卓也部長代理は、プロ野球界を取り巻く厳しい状況、それに加えて千葉ロッテはプロスポーツビジネスにおける重要なファクターと言われる「マーケット、メディア、スタジアム」で他球団に比べて不利であることに触れた。
しかし、その厳しい状況下で千葉ロッテの経営は10年前よりプラスに転じているのだ。
「'04年までずっと横ばいで来ていた売上額が、現在では約3倍となりました」
原田氏はその具体例を次々と明かす。
まずは“マーケット”の部分である。千葉ロッテのファンはだいたい100万人程度と、規模としては小さい。プロ野球球団としてはオリックスの次に少ない。しかし、まるでサッカーのような“声”を前面に打ち出した応援スタイルが魅力として知られる千葉ロッテには、あるデータで他チームとは違う傾向が見られるのだ。再び、原田氏の言葉。
ファンのスタジアム観戦率×年間観戦回数。
「応援が有名な球団でもあるんですけど、千葉ロッテのファンの方々は“アツい”方が多い。その傾向が現れるのが、スタジアム観戦率と年間観戦回数なのです」
'09年のスポーツマーケティング調査によると、千葉ロッテファンのスタジアム観戦率は64.3%の数値を示している。これは同じ都市球団のヤクルト(50.0%)や横浜(47.6%)だけではなく、地域に根付いているイメージがある広島の56.6%、日本ハムの50.0%と比べても図抜けている。
その観戦率とともに注目したいのが「年間観戦回数」である。同データでは千葉ロッテの観戦回数は5.3回。これはファン人口やスタジアムのアクセス面で圧倒的に優位な巨人の4.1回をも上回っているのだ。
この観戦回数増加には根拠があった。
CRMの導入で顧客の顔が見えてきた。
「少ないファンをいかに克服していくかは、CRM(カスタマ・リレーションシップ・マネジメント/ 顧客関係管理)の導入しかないという結論に至りました。以前からファンクラブ組織というものは存在していたのですが、そのリソースをいかに有効的に使って観客動員につなげるかというのは実際にやっていなかったのです。ファンが少ないなら、リピート率を上げるしかないのです。そのため、'06年からCRMの導入に至ったわけです」
現在の千葉ロッテは入場者数の約40%がファンクラブ会員と言われる。球団はそこに目をつけたのだ。顧客満足度を高めるため、顧客の詳細なデータベースを管理する「CRM」を'06年に導入した。
「その人たちがスタジアム内で行う飲食、チームのグッズや物販などでどのような購買行動をしているのかを把握するためにポイント制度を採用し、そこから新商品の企画やイベント立案に生かしています。そのため、まず初めて来てくれた人にはいかにファンクラブに入会してもらうか、年間で1回来てくれる人を2回に、5回来場してくれる人を6回にするというように、リピーター重視、すなわち既存顧客の固定化というところでCRMの導入理由がありました」
確かに、千葉ロッテは“売り出し中の選手グッズ”の発売タイミングが素早い。今シーズンで言えば、勝負強い打撃と堅実な守備で内野のレギュラーに定着した2年目、鈴木大地の名を冠した飲食物が登場。そして右腕・西野勇士が電車通勤でスタジアムまで通っていることにちなんだ「西野パスケース」が6月に発売される予定だ。
これらはCRMで得たデータを基に、リピーターの心をくすぐるような商品を企画し続ける好例と言えるだろう。