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<公開セミナー特別レポート2>
ファン数ワースト2位でも売上げ増へ。
千葉ロッテの地域密着型経営。
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph byAsami Enomoto
posted2013/06/18 10:30
受講した約200名は、Number Webの読者と、グロービスの受講生やOB。メモを取りながら、熱心に聞き入る人が多かった。
ネットメディアで情報発信。
そんなマーケットを広げるためのメディア戦略では、地元・千葉のメディアだけではなく、BSデジタル放送のTwellvやFOX SPORTSでの中継、そしてYahoo! やYouTubeとも連携するなど、新しいメディアとの連携を模索している。その既存メディアに対するアプローチに加えて、球団側からもアクションを起こしている。
「地上波や新聞のメディアのサポートが弱いのなら、ネットを主体とした球団主導の“インハウスメディア”というものを作っていこうとなりました。これに定型メディアとの緻密な連携を加えて、潜在的なファンやそもそもファンではない人を掘り起こすのです」
千葉ロッテのホームページを見てみると「marines.tv」というコンテンツがある。そのページではゲームダイジェストや勝利した試合でのヒーローインタビュー、新入団選手の会見などが閲覧できるなど、いつでも情報に触れる機会を創出しているのだ。
指定管理者制度で球場の運営を自主的に。
そして3つ目の要素、企業にとっては店舗となるスタジアムでも改革を推し進めた。その象徴は'06年に本拠地である千葉マリンスタジアム(当時の名称)を指定管理者制度で球団自体が運営することになったのだ。
指定管理者制度とは公的施設の管理や運営を、企業などの他団体に代行できる制度である。日本のプロスポーツ界では、Jリーグの鹿島アントラーズがホームのカシマサッカースタジアムで指定管理者制度を活用している。ちなみに球場との関係は、球団ごとによって異なる。例えば巨人の本拠地は東京ドームだが、球場を運営しているのは株式会社東京ドームのため、球場での売り上げは巨人に入ってこないシステムとなっている。それを踏まえて、原田氏は指定管理者制度に移行したメリットをこう考えた。
「売り上げが第3セクターに入っていたところを自分たちの球場として運営することになり、スタジアムに色々な投資をして魅力あるボールパークにしましょう、となったのです」
ネーミングライツで長期的な資金源を確保。
実際にQVCマリンフィールドへ足を運んでみると分かるのだが、正面入り口周辺には所狭しと屋台が並ぶ。その屋台村の横には2階建ての建物があり、マリーンズの歴史を振り返ることができるミュージアムと大型のグッズショップとなっている。
そして指定管理者制度はこのような営業収入だけでなく、ネーミングライツ(命名権)獲得への大きなきっかけとなったのだ。2011年シーズンから千葉マリンスタジアムはテレビ通販チャンネルの「QVCジャパン」に命名権を売却して、「QVCマリンフィールド」と名称変更された。今では多くの競技場で取り入れられているネーミングライツ。ただ千葉ロッテにとっては非常に大きな収入となった。
その詳細な内容はどのようなものだったのか?
「様々な企業に手を上げていただきましたが、QVCジャパンの示したものは“10年契約で単年2億7500万円”という日本では非常に珍しい、長期大型契約だったのです。ちなみにこのお金は千葉市と球団に半分ずつ入る契約で、長期にわたって原資が獲得できることになったのです」
2億7500万円の半分、1億3750万円の収入は非常に大きい。
昨シーズンのパ・リーグ首位打者に輝いた角中勝也の推定年俸は4200万円と報道されている。もちろん単純計算はできないが、人件費に当てはめれば角中3人分の金額が約束されているのだ。ちなみにネーミングライツをかわした際の条件には、このような条項も含まれているという。
「このスタジアムに、ロッテという球団が居続けるということです。これは結果的に地域密着の象徴となり、スタジアムが地元や自治体を結びつけるブリッジ役となっているのです」