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フェデラー戦勝利をどう見るか?
錦織圭が詰めた「BIG4」への距離。
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byAFLO
posted2013/05/13 12:35
フェデラーを破った瞬間の錦織。喜びの反面、この勝利に対する複雑な気持ちが出ている表情にも見える。
下位の選手が強豪選手に勝てない意外な理由とは?
下位の選手がフェデラーのような強豪に勝てないのは、リードを奪ったことでかえって硬くなり、みずから崩れてしまうからだ。
いわゆる「勝ちびびり」だ。
しかし、そこが錦織の非凡さなのだろう、“びびる”どころか逆に集中力が研ぎ澄まされた。ストロークはより攻撃的になり、リターンでは神がかったように相手のサーブを読みきった。
勝利を決めた錦織は静かにネットに歩み寄ると、ジュニア時代から目標にしてきた対戦相手と肩を寄せ合い、短い言葉をかわした。
感情を爆発させることはなかった。一瞬、両手を大きく広げて勝利の味を噛みしめたが、それだけだった。その表情は、むしろ悲しげと言ってもよかった。
本調子ではなかったフェデラーを気づかったのだろうか。
後日、錦織は自身のブログにこう書いている。
〈この勝利を本当に勝利とカウントしていいのか〉
〈どこか満足してない部分があるんだと思います〉
完全な勝利ではないにしろ、自分のスタイルを貫けた手応えはあった。
相手は本来のプレーにほど遠く、自分自身、100点満点の出来ではなかった。勝つには勝ったが、力の差を縮めたという確かな感触は得られなかったのかもしれない。
確かに、この勝利でフェデラーという壁を乗り越えたと見るのは正しくない。しかし、何より大きいのは、目指してきたアグレッシブなプレーを実践できたこと、そして、フェデラーという名前に少しもひるまず、勝ちきったことだ。
BIG4から奪った2つ目の勝利は、彼らを追い落とすための大きな足掛かりとなるだろう。はるか前方を走る4人を追いかけてきた錦織が、その距離を詰めたことは間違いない。現に彼は、フェデラーの背中に深い爪跡を残したのだ。