フットボール“新語録”BACK NUMBER
未勝利でも、進退問題が出ても……。
風間八宏監督が断固理想を追う理由。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byYusuke Nishizono
posted2013/04/19 10:31
4月13日、横浜F・マリノス戦の記者会見で出た「進退問題も出てくるのではないか?」という問いに対して、「僕の仕事は選手とともに前を向いてやっていくこと。進退は僕が決めることではない」と淡々と答えた川崎フロンターレの風間八宏監督。
クロップ監督が選手の前にぶら下げたニンジンとは?
クロップ体制2年目の2009-10シーズン、開幕戦こそ勝利したものの、ドルトムントは第2節から6試合連続で勝つことができなかった(3分3敗)。悪いことに、その3敗目はライバルのシャルケに喫したもので、ファンの不満も高まった。マリノスに負けたフロンターレの状況と極めて似ている。
だが、クロップの“ニンジン作戦”でチームは息を吹き返す。
緊急の短期合宿を行ない、クロップは選手たちに言った。
「残り10試合で、1試合あたりの全員トータルの走行距離が118kmを超えたら、オフを3日間増やす!」
ハイプレスに必要なのは、選手たちの走力だ。ニンジンを前に選手たちは猛烈に走るようになり、チームのベースが確立された。
クロップ1年目は6位だったが、2年目に5位になり、そして3年目に優勝を成し遂げた。
勝てないときにあえて動かないという考え方もある。一方、普段やらないことを起爆剤にするという考え方もある。この結果が伴わない苦しいときに、風間監督が選手たちにどんな言葉をかけ、どんな場を作るのか……それが鍵のひとつになる。
資金もステータスも無いJリーグで、世界と伍せる要素は何か?
個人的に、風間監督のフロンターレでの取り組みを長い目で評価すべきだと考えるのには、ひとつ理由がある。
これからJリーグが世界で勝負していくうえで、何が武器になるだろうか?
ヨーロッパのトップリーグに世界中の放映権料と資源マネーが集中しており、当面、資金力はJリーグの武器にはならなさそうだ。また、ヨーロッパに渡る日本人選手が増え続けており、ステータスという面でもまだ太刀打ちできない。
だが、お金をかけなくても、伝統がなくても、大きな武器にできるものがある。
それは監督のスタイル、およびフィロソフィーだ。
戦術の進化や創造は、発明に近い。監督の思考次第で、ヨーロッパの最先端の、さらに先に行くことが可能だ。
こんな攻撃的で、ぶっ飛んだサッカーは、日本でしか観られない――となったら、もっともっとJリーグの熱が高まるはずだ。
そういう意味でも、ただ勝つだけでなく、新しい発想とともに勝つ監督がJリーグで出現することを個人的に強く望んでいる。
バイエルンのウリ・ヘーネス会長は、こう言う。
「監督には、勝つだけでなく、フィロソフィーが必要だ」
風間監督がそういう存在になれるかは未知数だ。だが、独自のフィロソフィーを持っていることだけは間違いない。勝利とフィロソフィーを両立する監督が生まれれば、Jリーグの新たな扉が開く。