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未勝利でも、進退問題が出ても……。
風間八宏監督が断固理想を追う理由。 

text by

木崎伸也

木崎伸也Shinya Kizaki

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photograph byYusuke Nishizono

posted2013/04/19 10:31

未勝利でも、進退問題が出ても……。風間八宏監督が断固理想を追う理由。<Number Web> photograph by Yusuke Nishizono

4月13日、横浜F・マリノス戦の記者会見で出た「進退問題も出てくるのではないか?」という問いに対して、「僕の仕事は選手とともに前を向いてやっていくこと。進退は僕が決めることではない」と淡々と答えた川崎フロンターレの風間八宏監督。

風間監督がやろうとしていることは“普通”ではない。

 ただし、ここまで書いてきた“分析”というのは、あくまで常識的にサッカーを観たときの話である。

 風間監督がやろうとしていることは、はっきり言って“普通”ではない。

 リスクに対するセンサーのネジが1本飛んでいなければ怖くてできないような、強者のサッカーである。だからこそ、「できていないこと」だけを見るのではなく、「できていること」に注目すると、チームの別の表情が浮かび上がってくる。

CLのバイエルンvs.ユベントス戦を観て理解できた、その複雑な戦術。

 たとえば守備に関して言えば、ハイプレスとは異なる方向性の守備が、だいぶ形になってきている。

 以前、風間監督がこんなことを言っていた。

「自分がやろうとしている守備は、ユベントスの守備に似ているんだ」

 風間監督の守備を、文章にするのは非常に難しいのだが、一言で書けば「プレーの選択肢を奪う守備」だ。全員が正しい位置に立ち、ボールを持っている相手選手の選択肢をゼロに近づけることで、ボールを奪うというやり方だ。動的なハイプレスに比べて、静的な印象である。

 正直、何度説明を受けても、自分にはこの守備法の意味がわからなかった。

 自分としては、ハイプレスの方が効果的と考えているからだ。だが今月、ユベントスのバイエルンとのCL準々決勝を観たとき、ついに合点がいった。

 バイエルンはバルサ化が著しく進んでおり、ボールを扱う技術、パススピード、ドリブルによる打開、視野から外れて受ける動き、すべて高次元で実行している。ドルトムントのハイプレスを相手にしても、簡単にボールを奪われなくなった。

 しかしユベントスは、その神がかったバイエルンのパスワークをほぼ遮断することに成功していたのだ。

 ユベントスは3-5-2のシステムをベースに、守備時には5人の中盤の選手がほぼ横一列に並んでいた。中央にいるのがピルロだ。

 すると不思議なことが起きた。

 ボールを持ったバイエルンの選手が、たいしたプレッシャーを受けてないにもかかわらず、判断が遅れて仕方なく横にドリブルするシーンが増えたのである。その判断の遅れを見逃さず、2トップと近くにいるMFが詰めてボールを絡め取っていた。

川崎は、この戦術を継続していけば守備も強化されるはず。

 カラクリは単純である。

 5人の中盤の選手が2次元の平面上のパスコースをほぼ消すことにより、相手選手がパスを出せるのは、彼らの頭の上を越える3次元的なパスしかなくなるのだ。だが、ボールを浮かせたパスならば、地面に落ちて来るまでの間に移動して対応できる。結局、第1レグではバイエルンの強引なミドルシュートから2点が生まれ、第2レグはFKからゴールを決められたが、内容は僅差だった。

 フロンターレは5人が横一列に並ぶわけではないが、根本的な発想は同じである。

 ボール保持者の選択肢を限定し、躊躇した瞬間を見逃さず一気に詰める。マリノス戦の時点では、まだ一気に詰めてボールを奪うほどにはなっていなかったが、パスの選択肢が限定されて、マリノスの攻撃が停滞する場面が何度も見られた。このまま継続して行けば、もっとボールに詰め寄れるようになり、守備の激しさも出てくるだろう。

【次ページ】 大島僚太は“客を呼べる選手”になりつつある。

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