MLB東奔西走BACK NUMBER
大谷翔平のメジャー行きになぜ驚く?
有効な対策を取らないNPBの不思議。
text by
菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi
photograph byNIKKAN SPORTS/AFLO
posted2012/10/25 06:02
今年9月、ロサンゼルス・ドジャースのローガン・ホワイトGM補佐(写真中)が花巻東を訪れ、面談を行った後の写真。エーシー・興梠アジア部長(左)、小島圭市スカウトと共に。「大谷選手は世界でもトップクラスのアスリートです。ドジャースに来てほしいと思っている。必要なら毎日足を運ぶつもりだ」と語ったローガン氏。
遂に“来るべき”時がやって来た……。
その去就が注目されていた花巻東高校の大谷翔平投手がメジャー挑戦を正式表明した。日本の球界関係者やメディアの間では、このニュースを衝撃的に捉えているようだが、本当にそれほど予想外の事態だったのだろうか。
揉めに揉めた次回WBC参加問題の時もそうだったが、日本球界の議論は常に“内向き”思考のように思える。今回の大谷の件にしても、MLBの視点から考察してみれば問題の本質がハッキリと見えてくる。それは、NPBの“事なかれ”“棚上げ”体質とでも言えるものだ。これまでの過去の経緯をちゃんと理解していれば、ごく自然な流れとして、この日を穏やかに迎えられたはずなのである。
なぜ大谷のメジャー行き表明がこれほど関心を集めたのかといえば、日本のドラフトで上位指名候補に挙がった高校生が直接メジャー入りする初めてのケースだったからだ。だが、冷静に考えてみてほしい。「日本のドラフトで上位指名候補に挙がった」という部分を省けば、これまでにも多くの高校生たちがメジャー球団と直接契約してきているし、2008年には当時ドラフト上位指名候補だった社会人の田澤純一投手もレッドソックスと契約しているのである。MLBが突如として予想もしなかった動きをしてきた、というわけでは決してないのである。
15年以上前からメジャーのスカウトは日本で活動していたが……。
そもそも日本でMLBが注目されるようになったのは1995年の野茂英雄投手のように思われがちだ。だが、その1年前にマリナーズのキャンプで開幕ギリギリまでメジャー入りを争ったマック鈴木投手も、かなりのインパクトを持って報じられていた。その鈴木にしても日本の高校を中退して、MLB入りを目指した若者だったのだ。
1995年以降、MLBの中で日本市場の価値が認識され、各チームが日本常駐のスカウトを置くようになってきた。今では毎年のように米国から多くのスカウトが日本に派遣されており、プロ、アマ問わず熱心なスカウト活動を行っている。これまで大谷投手に関して何度となく「メジャー○球団がネット裏から熱視線を送る」などと報じられてきたように、MLBの各球団も日本のドラフト上位指名候補に興味を抱いているのは周知の事実だったわけである。