プレミアリーグの時間BACK NUMBER
プレミアでも典型的CFは絶滅危惧種!?
キャロルらターゲットマンの生きる道。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byAFLO
posted2012/08/02 10:30
191cmの恵まれた体格を持ち、エリア内では無敵の強さを誇るキャロル。しかし、本格派ストライカーとしてその存在価値を証明するためには、更なる得点が必要になる。
EURO2012閉幕から約1カ月。五輪サッカー熱の低いイングランドでは、例年通り、移籍市場での噂がサッカーファンの間で話題の中心になっている。
動向が注目されるプレミアリーグ・スターの中には、対照的な理由で離脱の可能性が指摘されるFWが2人。アーセナルのロビン・ファンペルシと、リバプールのアンディ・キャロルだ。
契約が残り1年となったファンペルシは、昨季のプレミア得点王にして、本来はトップ下を好む、テクニカルな万能型CF。残留を請うクラブとの延長交渉を断ると、早速、マンチェスターC、マンチェスターU、ユベントスなど、国内外の強豪から触手が伸びた。一方、移籍2年目のキャロルは、最前線で体を張る典型的CF。23歳と将来性も高いターゲットマンだが、「足下派」の新監督就任で構想外との見方が強まった。この、 ファンペルシとキャロルを取り巻く「明暗」は、サッカー界のトレンドそのものだ。
キャロルが、古巣ニューカッスルで「アラン・シアラーの後継者」として期待され始めたのは2006年の頃。イングランド人FWにとって、EURO1996得点王にも輝いた元代表CFとの比較は勲章のはずだが、ほぼ時を同じくして、CFの生存環境も変わり始めた。今や、シアラーとの比較は「時代遅れ」を意味しかねない。
スペイン流パスサッカーのトレンドがCFの役割を変えた。
トレンドの発信源がスペインであることは言うまでもない。パスサッカーが徹底された同国では、過去7年間でバルセロナがCLを3度制し、代表チームは主要国際大会で3度の優勝を果たしている。タイトル防衛に成功したEURO2012では、3トップにMFを並べ、「FW要らず」と騒がれた。
スペイン風の魅力は理解しやすい。ショートパスをつなぐ、テクニカルかつリズミカルなビルドアップは見応えがある。選手の側からも、ボールに触れながら攻める機会が増えるのだから、本質的に歓迎されないはずがない。
“ティキ・タカ”と呼ばれるこのスタイルでは、ゴールへの詰めにおいて、CFの存在ではなく、2列目からの参加を含む最前線での頭数が物を言う。また、これも、バルセロナによるリオネル・メッシの右サイド起用が火付け役かもしれないが、利き足とは逆のサイドで攻撃のキーマンを使うパターンが増えている。昨季のCLファイナリスト、バイエルン・ミュンヘンのアリエン・ロッベンとフランク・リベリーの両翼もその類だ。