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野球で大事なのは“神経”か“力”か?
堂林、筒香ら次世代スラッガーを検証。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byKyodo News
posted2012/05/21 15:00
走攻守の三拍子が揃う“Aロッド”ことヤンキースのアレックス・ロドリゲスのような選手になって欲しいという願いが込められている、堂林翔太の背番号13番。
神経と力。
野球において、どちらがより大事かと聞かれたならば、迷うことなく前者だ。もっとわかりやすく、「当てること」と「飛ばすこと」、どちらが大事かと置き換えたらどうか。
こう書けば、明白だろう。どんなに飛ばす力があっても、当たらなければ話にならない。
そんなことを考えたのは、2つのことがきっかけだった。
先日、巨人の阿部慎之助の恩師、中根康高に会った。安田学園(東京)の前監督である。阿部といえば球界屈指の中距離打者である。1年生のときからさぞかし目立っていたのだろうと思いきや、入学当時の話を聞いても、反応は鈍かった。
「入ったときの印象でいえば、私がこれまで見た選手の中では、ベスト10に入るか入らないかでしょうね。もっとすごい選手は他にいましたから」
ただ、こうつけ加えた。
「ミートするのはうまかったですよ」
1年生のときから打率は5割近かったという。
その話を聞いて、小笠原道大の高校時代の話を思い出した。当時、暁星国際(千葉)の監督だった五島卓道(現木更津総合監督)が、高校時代の小笠原に対し、まったく同じような印象を持っていたのだ。「ぜんぜんすごい打者だとは思わなかったけど、芯に当てるのはうまかったよ」と。
9歳から12歳の間の“ゴールデンエイジ”で完成する“神経”。
阿部が頭角を現し始めたのは3年生になってからだった。ふた冬越し、飛距離が急激に伸びたのだ。
そんな阿部を見て、中根はしみじみ思ったそうだ。
「力は後からでもなんとでもなる。でも、神経は、あとからつくるのは難しい」
運動などに必要な神経回路の発達は「ゴールデンエイジ」と呼ばれる9歳から12歳の間でほぼ完成すると言われている。つまり、その時期までにある程度、バットを扱う技術を身に付けておかなければならないのだ。高校、大学、プロで、いくらがんばっても、もう手に入らない神経があるのだ。