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主力を欠いても楽天はなぜ勝てる?
星野采配で光る“どろんこ3兄弟”。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byKyodo News
posted2012/05/23 12:05
守備で悩み、開幕から4キロも体重を減らしてしまったという銀次。銀次に関しては守備の不安を語っていた星野仙一監督も、阪神戦の後には「ええ仕事をするな」などとベタ褒めだったという。
戦力差は明らかだった。
5月19、20日の阪神戦に連勝した楽天。そのスターティングオーダーに名の知れた選手は少なかった。
ある関西担当の記者がつぶやいていた。
「楽天って、なんで勝っているんですかね」
無理もない。
阪神には、鳥谷敬を始め平野恵一、金本知憲、新井貴浩、マートン、能見篤史……昨年のゴールデングラブ賞受賞者やシーズン200本安打の打者、二桁勝利投手などの名前がズラリと並ぶのに対し、楽天は大黒柱の田中将大とキャプテンの松井稼頭央が故障で離脱、松井と同じくメジャー帰り2年目になる岩村明憲も不調で二軍調整中といった悲惨な状況だった。
全国的に知られた名前といえば、'09年首位打者の鉄平や選手会長の嶋基宏くらいのもので、その鉄平ですら、今では外野の守備固め要員である。
スターティングオーダーを見比べただけでは、楽天躍進の理由は見つかりそうもなかった。
それでも、阪神に2戦とも勝利を収めたのである。
なぜ勝てたのか。
穴となった二遊間を、細かい選手起用で埋めている星野監督。
一番の勝因は、星野仙一監督の勝利へ執着した選手起用法だろう。
たとえば、内野手。楽天の昨季の二遊間は、遊撃手が松井、二塁手が内村賢介だった。ところが、松井は先述したように故障離脱。内村は守備には定評があるものの、バッティングが不調で、さらには送りバントなど小技にミスが目立ち、安定性を欠いていた。
いわば今季はチームの骨格をなすはずの二遊間を失っていたのだが、そこで、星野監督は、この二遊間の起用を細かく使い分けることにしたのだ。
守備の上手い内村と西村弥をベンチに残し、若手で売り出し中の3人のうち2人をスタメン起用する。そして、試合展開によって頻繁に選手を代えていく。そうすることで、一人では補えない戦力差を埋めていくのだ。
その3人というのが首脳陣から「どろんこ3兄弟」と名付けられた、銀次、枡田慎太郎、阿部俊人の若手3人衆である。
銀次と枡田は同じ24歳、阿部はその一つ下。星野監督は彼らを競わせることで、一つの戦力としたのだ。