メディアウオッチングBACK NUMBER
カズの壮大なドラマが浮かび上がる
豪華往復書簡集。
~三浦知良『Dear KAZU』発売記念~
text by
加部究Kiwamu Kabe
photograph bySports Graphic Number
posted2011/12/09 06:00
『Dear KAZU 僕を育てた55通の手紙』 三浦知良著 文藝春秋 1200円+税
やんちゃなサッカー小僧がキングとして敬愛されるまで、壮大なドラマが手紙の往復という手段によって、軽妙に、またほのぼのと紡ぎ出されていく。『Dear KAZU 僕を育てた55通の手紙』は、そんな一冊である。ペレに始まり恩師の納谷義郎氏で締め括る豪華ラインナップによる語りかけが、ほど良くカズの記憶を刺激し、半生にまつわる秘話、本音などを引き出していくのだ。
中学時代から、サッカーへの愛情は筋金入り。教室で投げたボールを担任の先生にゴミ箱に捨てられ、カズは激高する。
「サッカーボールは僕の命だ」
しかし15歳の少年が舞い降りたのは、「金持ちの国から来た奴が、どうしてサッカーなんかやるのか?」と偏見に満ちたブラジル。「自分よりはるかに才能があるヤツらが、プロになれずにドロップアウトしていく姿もたくさん見て」実感するのは、「謙虚でなければ運さえ向いてこない」という真実だった。
帰国後、日本サッカー界の常識をどんどん変えていったカズ。
少年は連日「練習場へは誰よりも早く現れ」(元同僚のドゥンガ)、遅くまで居残り練習を続ける。そして遂に「ブラジル人のようにボールを扱うことが出来るジャポネース」(ペレ)へと変貌を遂げ、'90年にはペペという指揮官との幸運な出会いもあり、サントスでレギュラーを奪取するのだ。自ら「ペペのようにやれ」と指導するほどの誇り高き元名手は、こう言って若いカズを送り出す。
「お前が良いプレーをしたらお前の手柄。お前が良くないプレーをしたら俺の責任。お前の責任じゃない。心配するな」
理想の上司を得て、本場で成功を掴んだカズは、プロ開幕前の日本に帰国すると「アマチュア体質だった日本サッカー界の常識をどんどん変えて」(都並敏史氏)行く。時代の寵児は、相応のプライドを持ち、鼻っ柱も強かった。ヴェルディを率いたネルシーニョが、PKをペレイラに任せようとすると「外そうが何しようが俺が蹴る」と監督決定を覆し、代表監督のオフトが途中で下げると「オレを代えるな」と食ってかかった。
「でもオフトさんは“それは私の決めることだ”とサラリ。もちろん監督は、そうじゃなきゃいけない」
不惑に近づいたキングは、それを振り返り舌を出す。