Column from EnglandBACK NUMBER
CLの敗戦とロナウド移籍の暗喩。
~ファーガソンはヒディンクを目指す?~
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byMan Utd via Getty Images
posted2009/06/13 06:00
バルサ戦のファーガソンは“二兎を追う者”だった。
ある意味、バルサ戦でファーガソンが試みたのは、この種のステレオタイプを覆すことだった。むろん本人は、プレミアやイングランドサッカーの大義名分を背負うつもりなど毛頭なかっただろう。頭の中で渦巻いていたのは「攻撃的なサッカーをするチーム」と書かれた看板が傷つくことへの恐れと(ましてや昨年の準決勝の前科がある)、CL史上初となる連覇へのぎらついた欲望と、引いて守らなくとも勝ちを拾えるのではないかという算盤勘定にすぎない。
これら三つの要素が重なり、バルサ戦の見取り図ができあがる。ファーガソンは、ビッグイヤーの獲得と、イメージアップによるファン獲得の一石二鳥を目論んだ。
結末はご承知のとおり。彼は一兎をも得ず、誰もが心待ちにしていた「ローマの休日=祝祭」は、ずいぶんと間延びしたものになってしまう。
ただし本当に惜しむべきは、実は試合の温度の低さではない。何より悔やまれるのはファーガソンが戦術を誤り、マンUがほとんどの時間帯で攻撃の切れ味を欠いた点である(バルサは守備力で勝ったともいえるが、論評は別項に譲る)。プレミア勢が「大陸側の定義にもとづく、好き(よき)サッカー」でバルサに対抗できるのかという実験は、またもや未完に終わってしまったからだ。
3年前の決勝ではアーセナルが検証に挑んだが、GKのレーマンが早々とレッドカードで退場。ベンゲルは10人での実験続行を余儀なくされ、最終的に2-1で苦杯をなめている。バルサの「試金石」があちこち欠けていたとはいえ、今回のマンUの方が明らかに条件には恵まれていた。
「打倒バルサ」の時機を待つファーガソンの作戦は?
バルサは当面の間、各クラブの実力と方向性を見極める指標になるだろう。各国代表の合言葉が「スペインを倒せ」であるように、「誰が、いつ、どのような方法でバルサを倒すのか」は、欧州サッカーのメインテーマである。
クラシコで歴史的大敗を喫したレアルは、ライバルを蹴落とすためにカカを招いた。マンUも打倒バルサを実現すべく、ほどなくチームの衣替えに着手するはずだ。
そこでファーガソンは、いかなるレッスンを縁(よすが)とするのだろう。ヒディンクに倣って防波堤を高くしようと考えるのか、あるいはパワー、スピード、フィジカルの強さといったイングランドサッカーの資材を建設的に用い、撃ち合いでもバルサに雪辱できる集団に仕立て上げようとするのか。
ファーガソンは情念の人として知られる。羅針が反動に振れないことを、ロナウドの放出が、極北のリアリズムの始まりでないことを願いたい。