バンクーバー五輪 匠たちの挑戦BACK NUMBER
ルールに翻弄されるスキージャンプ。
日の丸飛行隊を蘇らせた最新スーツ。
text by
茂木宏子Hiroko Mogi
photograph byKYODO
posted2010/02/11 08:00
日本のトップ選手たちがこぞって日本製のスーツに変えた。
長野五輪のときは日本開催にもかかわらず、ミズノのスーツを着る選手が一人もいないという屈辱を味わったが、バンクーバー五輪では日本チーム全員がミズノのスーツを着用する。長年の地道な努力がようやく報われた格好だ。
小田にとって何より喜ばしいのは、日本ジャンプ陣の支柱である葛西と岡部の両ベテランが今シーズン、他社のスーツからミズノへと着替えてくれたことである。トップ選手は、五輪イヤーにマテリアルを変更するようなギャンブルを普通はしないものだが、勝つためにあえてリスクを冒したのだ。
「スーツテストをしたいという申し出があったので、6月から本格的にテストを開始しました。夏場は3着、4着、5着と本当にたくさんつくっていろんなカッティングを試し、その中からそれぞれに合ったモデルを消去法で選んでいったんです」
その結果、岡部は「やっぱりシンプルな形がいい」というので、教科書通りのオーソドックスなスーツに仕上がった。一方の葛西は、これまで使っていたスーツが肩や首の回りが窮屈で「助走姿勢に入ると息もできないぐらいに苦しかった」というので、まずは助走姿勢や膝下のフィット感を高めた。また、空中に出たときに下半身の前面がフラットになるように、股上のカッティングや縫製で調整するなどディテールにこだわっている。岡部以外の選手は基本となるカッティングはほぼ同じだが、それぞれの要望に応じてプラスαの工夫を凝らしているのである。
葛西と岡部の2人から「パーフェクト!」と認められた。
選手にとってみれば、試合で使えないスーツを供給されても困るので、まずはFISの定めたルールに適合したスーツであることが一番だ。しかし、その範囲内であればこれ以上ない極限まで精度を高めてほしいというのが本音。生地の通気量であれば1平方mあたり40.1リットルよりも40.0リットルであることを望む。この程度の差は飛距離にほとんど影響しないが、少しでも有利な数値であることが選手の精神的なアドバンテージになるのだという。
次から次へと出てくる細かい要望に即応し、選手が納得する1着を完成させた結果、今シーズンのワールドカップ開幕戦で葛西と岡部の2人から「パーフェクト!」とお褒めの言葉をもらった。